■繊細で可憐な女性の深い愛
詩人のランボー、長編小説を書いたドストエフスキーという対極にある2人の文学者と格闘することからヘンリー・ミラーは『北回帰線』を書き上げデビューする。決して平易とは言えないこの作品がこんなにも長く深く人々に愛され続けているのは、ミラーの持つ太陽のような明るさ、圧倒的にポジティブなその姿勢からだろうと思う。本書を読むと、そのことがさらに明瞭に具体的に理解できる。
著者のホキ徳田はぼくの年上の友人であり、思えば最初にお会いしてから30年以上の月日が流れたことになる。彼女が再開したミラーのメモリアル・バー「北回帰線」にも何度か足を運び、その度にミラーの思い出話をせがんだものだった。断片的なそれらのエピソードが、本書を読むことで見事なタペストリーとしてぼくの眼前に姿を現したのであった。
ミラー最後の妻であるホキもまたミラーに負けず劣らず豊かな生命力を放っている。