□『むしろ素人の方がよい 防衛庁長官・坂田道太が成し遂げた政策の大転換』
■国民と自衛隊の橋渡し役に
いやはや本書の余りに大胆なタイトルには驚嘆した。著者の佐瀬昌盛防衛大学校名誉教授と言えば、安全保障問題の碩学(せきがく)で知られている。集団的自衛権研究の第一人者でもある。そんな著者が、なぜ防衛のトップは「むしろ素人の方がよい」と言い放つのか。一読して納得した。
本書は坂田道太の歴代最長となる747日間(昭和49~51年)にも及ぶ防衛庁長官としての大立ち回りを描いたノンフィクションである。文教族の坂田は、就任当初は防衛に関して全くの「素人」だった。だが、素人故に謙虚に自らの研鑽(けんさん)に励み、「防衛を考える会」を立ち上げて専門家の意見にも真摯(しんし)に耳を傾け、「防衛計画の大綱」策定を始め、「玄人」にはできない数々の大功を成した。住友商事創業者・田路舜哉(とうじ・しゅんや)の名言「熱心な素人は玄人に優(まさ)る」は坂田のためにあるような気さえする。
中でも注目すべき偉業は、著者も「話題になることは少いが忘れてはならない坂田の功績」として挙げている「自衛隊、自衛官に絶えず心を配りつづけたこと」であろう。当時は、自衛隊を日陰者扱いする風潮があり、「自衛隊違憲論」が席巻する「不幸な時代」で、社会党にも勢いがあった。