焼けた肉の香ばしいにおいが、車内いっぱいに充満した。頬の奥から生つばがわき、胃がきゅうっと収縮する。タイ鉄道東北線南線が走行するイサーン地方の伝統料理「ガイヤーン」だ。ガイヤーンとは、甘辛いタレに漬け込んでよく味をしみ込ませた鳥のもも肉を、皮目はこんがりパリッと、肉はふっくらジューシーに焼き上げる鶏肉のグリル料理。蒸したもち米の「カオニャオ」と組み合わせて食べる。車内では、串に挟んだ大きなもも肉を手提げカゴに見目よく並べ、ポリ袋に詰めたもち米とともに販売していた。
それにしても、もの売りのバリエーションの豊富なことといったら、まったく飽きることがない。彼らは、タイ鉄道から認可を得た販売員たちだ。大きなバケツにクラッシュアイスをぎっしり詰め、ビールや炭酸飲料をきんきんに冷やすといったプレゼンテーションも工夫しているそうだ。
発泡スチロールのパックに入った「ガパオ」をひとつ購入した。鶏ひき肉をバジルの葉や唐辛子と炒め合わせてごはんにかける、タイの典型的な屋台料理のひとつだ。半熟の目玉焼きも、ちゃんとのっかっている。売り子のおばさんは、ラップにくるまれたそれを一度下げ、どこかで温め直してから戻って来た。慎重な手つきでラップをはずし、添付のナンプラー(魚醤)ソースの小袋を切り開け、丁寧にかけてくれる。すべての作業がのんびりしている。まあ、効率はこの際問うまい。