「もう一つの人生」を超えて 角田光代さん 短編集「平凡」 (1/3ページ)

2014.7.6 07:46

短編の執筆は「考え考え、少しずつ」進める。「たくさん書くことでつく筋肉もあるけど、今必要なのはそうじゃない」と話す角田光代さん(野村成次撮影)

短編の執筆は「考え考え、少しずつ」進める。「たくさん書くことでつく筋肉もあるけど、今必要なのはそうじゃない」と話す角田光代さん(野村成次撮影)【拡大】

 もしあのとき別の選択をしていたら、今の自分はどうなっていただろう? 角田光代さん(47)の新刊『平凡』(新潮社)は、ふとした瞬間頭をもたげる「もう一つの人生」をテーマに据えた短編集だ。かなしみや怒り、それを超えたすがすがしさ。現在と過去を交錯させ、あらゆる感情の振幅を刻む6編は、来年でデビューから25年となる作家の人生観の変化も映し出す。(海老沢類)

 苦い過去から

 「年齢を重ねると、現在や未来だけでなく、後ろを振り返る視点が出てくるんですよね」と角田さんは言う。「そんなときに思い起こす人生の分かれ目は、就職のような大きく特別な選択にはない。例えば昼に食べたのが、うどんなのかそばなのかというような小さな選択にある、という思いがずっとあったんです」

 収録作で描かれる岐路は結婚や仕事に限らない。登場人物は日常の何げない選択を振り返り、あり得たかもしれない「今」に思いを募らせる。象徴的なのがラストの「どこかべつのところで」だ。愛猫に自宅から逃げられ「窓をちゃんと閉めていれば」と悔やみ続ける幅木庭子が、10年近く前に20代の息子をバス事故で亡くした初老の女性の回想に耳を傾ける。事故の朝、おにぎりを持たせるために息子を引き留めて出発を遅らせたことを深く後悔した初老の女性は、そうしなかった『もう一人の自分』がどこかで生きていると考えることで救いを得る。〈私、二人になったみたいな気持ちでいるの〉。時を経て苦い過去を少しずつ受け入れた彼女の言動は、自責の念に引き裂かれる庭子の心を包んでときほぐすような、しなやかな強さと温かさを持つ。

40代の半ばを過ぎると平凡でいられるのは幸せだと感じる

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