本書の新鮮さは、人間の埋葬を経済活動の面からとらえることや、エリート層以外の埋葬をこまやかに見ている学者の目配りにある。
古代中国では、人の死後に天に昇る魂と地に還(かえ)る魄(はく)という2つの存在が考えられていた。古代エジプト人も人間の不可視の要素を、「カア」と「バア」に分けて考えた。霊魂と同様に人は死後も存在を続け、これらが肉体を介して再合一を果たすことで来世での再生が実現されると考えられていた。〈来世の世界「魂の行き先」、葬儀「ミイラ製作の手順」、墓を造る「理想の埋葬とは」、死者とともに-副葬品の意味「棺の役割と変遷」、来世の値段「ミイラ製作のコスト」、庶民と死「庶民の埋葬場所」〉。ナイル河のほとりの生活が保障される“死者が住む来世”を信じる庶民の生活史。快著だ。(ポプラ新書・本体830円+税)
評・水口義朗(文芸評論家)