このしくみは、架線から給電する旧来の方法より費用がかかるそうだ。だが、交通渋滞の緩和や環境保護を目的に路面電車の導入が決定されたとき、ボルドーは、コストより景観の美しさを守ることを選んだという。この国の人たちの「美しくあること」への強い思いに、何度舌を巻いたことだろう。
いまではボルドー市民の足として、すっかり定着した路面電車。路面電車の前を徒歩で横切ったり、レンタル自転車に乗って並走したり、路面電車と思う存分触れ合える。
町歩きに疲れ、旧市街のカフェのオープンテラスに座った。夏のボルドーは午後10時近くまで明るく、湿度を含まない風が心地いい。ワイングラスを傾けていると、路面電車がやって来る。グラス越しに見る車両は、とっておきの美しさを放っていた。
■取材協力:ボルドーワイン委員会
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。