【書評】『中原中也の鎌倉』福島泰樹著 (1/2ページ)

2014.9.28 09:27

『中原中也の鎌倉』

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 ■最後の地の悲しみと幸せ

 中原中也が鎌倉で30歳という若さで亡くなって、今年で77年になるという。福島泰樹さんの『中原中也の鎌倉』を読みながら、中也がたまらなく愛(いと)おしく思われてきてならなかった。

 中也は昭和12年の2月末に鎌倉へきて、その年の10月末にはもう空の上へ旅立ってしまった。長男文也(ふみや)がなくなって、まだ1年もたっていなかった。中也の悲しみは、その死まで続いていた。

 中也は妻の孝子、次男の赤ん坊の愛雅(よしまさ)と共に寿福寺の境内に住むことになった。家の背後の崖には巨大な洞(ほら)があり、家の中へ冷たい風が吹き抜けていたという。生気のない青白い顔をした中也は、家の玄関口の屋根の上に昇り、友人を出迎えた。屋根の上が、少しでも愛する息子のいる空に近いと考えたのだろうか。からだも、だんだん弱っていった。

 鎌倉へくる前に、中也は千葉市内の中村古峡(こきょう)療養所に入所していた。そこで書かれた彼の詩が発見されたのは、ほんの14年前のことである。「丘の上サあがって…」で始まる詩は、びっくりするほど明るい。いつからか療養所は病院となり、丘もとっくになくなった。しかし今病院の屋上にでると、そこがそのまま中也の詩の中の丘の上であるような気がしてくる。今年の8月8日、私はその屋上にいた。カルチャーセンターの課外講座の日だった。みはらしのよい屋上に立っていると、中也の笑顔が浮かんできた。彼は鎌倉の家の屋根の上で、千葉の丘の上にいた時のような心地よさを感じていたのかもしれない。ふとそう思った。

鎌倉で彼女がいる時が一番幸せだった…

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