【書評倶楽部】京セラ顧問・伊藤謙介 『トワイライト・シャッフル』 (1/2ページ)

2014.10.5 14:23

伊藤謙介氏

伊藤謙介氏【拡大】

  • 「トワイライト・シャッフル」

 ■生きることの寂寞感にじむ

 5年前になるが、ある新聞に連載された、乙川優三郎氏の小説「麗しき花実」を毎朝読むことを楽しみにしていた。

 江戸蒔絵(まきえ)に命をかける師匠を慕う女性の静かに燃える情念を、濃密かつ流麗に描いた物語は、心に美しい余韻を残し、今もたゆたっている。

 本書は13編の短編小説から編まれ、それぞれの作品は、端正で濃度が高い。

 物語はすべて、房総半島の太平洋に面した小さな町で繰り広げられる。海水浴シーズン以外は閑散とし、静寂な風景の中で、波の音のみかすかに聞こえてくる。そんな町に開発の波が押し寄せ、都会の風が吹き始める。

 香水やワインのかすかな匂いが風に融(と)け、媚薬のように小さな町の純朴な男や女の心を麻痺(まひ)させ、あるいは覚醒させ、物語は紡ぎ出されていく。

 短編「オ・グランジ・アモール」は、海辺に面した小さなホテルのバーでジャズピアノを弾く、一人で生きる年老いた男を描く。

 どこか哀愁の漂う美しい女性が、夜ごとバーを訪ね、ピアノを聴きながら、うっとりとした視線を夜の波間に漂わせる。男はその姿に、儚(はかな)い瞬間の喜びを感じ、人生の輝きを取り戻していく。

生きることの寂寞感がにじみ出てくる

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