■幸せの処方箋をみつけた
このところいやなニュースばかりが目につく。世の中、それだけ生きづらくなっているのだろうか。
ところでかつて戦時中のドイツで、ひそかに読まれていた詩集がある。『飛ぶ教室』などの児童文学でも知られるケストナーの『人生処方詩集』だ。ひそかに…というのは、ケストナーは、当時ナチスによって禁じられた作家だったからだ。でもこの詩集は、砲弾の飛び交う戦場でも、ユダヤ人のゲットーでも読み継がれていたという。詩に描かれているのは、だれもが感じる気持ちであり、「結婚が破綻したら」「孤独に耐えられなくなったら」など、「つらいとき」や、「さびしいとき」に読めるよう処方もついている。
石井光太著『ちいさなかみさま』に出合ったとき、すぐに思い出したのは、このケストナーの詩集だった。
なにかで絶望し、苦しんでいるときでも、人はもがきながら、自分にしか見えない光を暗闇の中に灯(とも)し、ゆっくり歩んでいくものだ。そのとき心を救済し、支えになってくれるものを石井は「ちいさなかみさま」と呼ぶ。