■「気」の思想を多角的に
「いい天気ですね。お元気ですか」など、「気」ほどよく使う言葉はない。「元気」は、前2世紀の中国の『淮南子(えなんじ)』によると、万物生成の精気である。元気の「清陽なる者は、薄靡(はくび)して天と為(な)り、重濁なる者は、滞凝(たいぎょう)して地と為る」とある。この文がそのまま『日本書紀』冒頭の天地生成神話に引用されている。
本書では中国思想を貫く「気」が縦横に読み解かれる。著者は日本道教学会会長を務めた、道教研究の第一人者であり、長年の思索の集大成である。老荘思想・漢方医学・天人(てんじん)相関説・鍼灸(しんきゅう)・瞑想(めいそう)法・内丹術・占術・風水、さらには宗族(そうぞく)集団の問題など、考察の射程は驚くほど広い。しかもそれは文献資料の正確な検証とフィールドワークによる調査に支えられている。
著者によれば、気は宇宙に充満し、始めも終わりもなく連続し、分割できない。生命体も非生命体も気から成り、その凝集と分解・拡散は絶えず繰り返される。この特色は伝統的な西洋思想とかなりの隔たりがあると言えよう。