羽田圭介さん【拡大】
すると母の対応に変化が表れた。何かを指摘されることがなくなり、怒られることもない。
そのとき、「僕はもう母から教わることは何もない」と思いましたね。単に文章の要約がうまくなっただけなのに、自分に文才があると“勘違い”したんです。
この勘違いこそが侮れなかった。これこそが羽田少年を文学の世界へと誘(いざな)う、最初の一歩となったのだ。
中学に入り、長い通学時間の間に暇つぶしのために本を読みました。そうして出合った椎名誠さんの作家としてのライフスタイルに憧れるようになっていった。
それでも小説を書くには至らなかったのですが、高1の終わりくらいに、綿矢りささんが、17歳で文藝賞を受賞したと聞き、「うわぁー、本当に学生のうちにデビューしちゃう人がいるんだ」と思って。すごく刺激されました。
そして、当然のことのように小説家を目指し始めたんです。なんせ、その頃もまだ、自分の文章能力に対する“過信”は揺るぎないものでしたから。