英国の欧州連合(EU)離脱決定やドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利-。“まさか”が詰まった激動の年を終えて迎えた2017年。今年はいよいよ、さまざまなことが動き出す年になりそうだ。1年の幕開けにふさわしく、未来を見据え、生活を豊かにする一冊を選んだ。
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□『移民の経済学』ベンジャミン・パウエル・編、藪下史郎・監訳
■感情論に警鐘、研究成果から理解を
英国が国民投票によって欧州連合(EU)からの離脱を決定し、米国の次期大統領には過激な発言で物議を醸した「不動産王」のドナルド・トランプ氏が選ばれた。世界、とりわけ先進国の価値観を揺るがした英米両国民の選択の背景には「移民問題」があった。
欧州各国で極右勢力が台頭し、政治リスクを引き起こしている大きな要因としても移民問題が挙げられる。トランプ氏に至っては、隣国メキシコからの不法移民の流入を遮るため国境に壁を設けると言い放った。
しかし、こうした移民排斥論はあまりに感情的になりすぎていないか。本書はこうした観点に立ち、移民による経済効果や文化的、政治的な効果などについて、これまでの膨大な研究成果を各分野の専門家が分析し、まとめた学術書である。それと同時に、移民問題に対する感情論に警鐘を鳴らしてもいる。
グローバル化による格差拡大で「取り残された人々」に対するポピュリズム(大衆迎合主義)にあおられ、英国のEU離脱、トランプ大統領を生んだのは確かだ。しかし、そこには何ら確証はない。その意味で、移民問題に対する理解を深める上で、重みのある一冊だ。(東洋経済新報社、3024円)
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