昔ながらの検札バサミをチャカチャカ鳴らしながら、車掌が姿を現した。私の知る限り、タイ鉄道の車掌は総じてユルいし人なつっこい。今回の車掌もどうやら例外ではないようだ。鳥をモチーフにしたタトゥーを腕に入れた車掌は、一度ハサミを入れて戻した乗車券を、再び取り上げて折り曲げたりハサミを入れたりしはじめた。さて、どうしたものか。返ってきたチケットを見て気が抜けた。「ハート、ハート」。カタコトの英語でそう言ってニコニコ笑う。他に「チョウチョ」もできるそうだが、丁重に辞退した。
ヒマを持て余しているのだろう。車掌に案内されて車内を散策する。なぜか、車掌よりは英語を話せる乗客のおじさんまでついてきた。「この客車の座席は、座り心地がいいので人気があります」「洗面所は私が掃除していますから、古いけどいつも清潔。ゴミもちゃんと回収しています」。タイの鉄道には、僧侶のための優先席が設けられている。オレンジ色の僧衣をまとった僧侶……より先に、僧侶の頭上にぶら下がっている古びた木の板が目に飛び込んできた。えっ、これ何?
注意書きの表示に描かれていたピクトグラムは、なんと手榴弾。車掌いわく、タイ鉄道では現在「禁酒・禁煙・禁手榴弾」が定められているそうだ。っていうか、手榴弾がそこに並ぶって……。