「路面電車か、それとも馬車がよろしいかもしれません」
悠々と流れるエルベ川の谷間に位置する東部ドイツ・ザクセン州の州都ドレスデンは、クリスマスマーケットでも有名なヨーロッパらしい美しい都市だ。
この街から、ハイセンスなホスピタリティを提供するホテルグループ「ルレ・エ・シャトー」に加盟している数少ないホテルのひとつ「ビューロー パレ」のコンシェルジュは、ウェルカムドリンクとしてドイツ産のスパークリングワイン・ゼクトのグラスを差し出しながらそう言った。透けるような白い肌に浮き出たそばかすとプラチナブロンドに輝く髪が美しい。
ば、馬車? 私にはなじみのないドイツ風の冗談かと思ったが、よく聞くとそうではない。ドレスデンの街はエルベ川を挟んで大きく旧市街と新市街に分かれている。路面電車の線路は現代になってから敷設されたため、古い石畳が敷かれた旧市街内を走行することはできず、旧市街を迂回するかたちで新市街とつながっている。一方、馬車は中世の時代から使われていた乗り物。現在ではもちろんローカルの人々はほとんど利用することはないが、旧市街に乗り入れることが許されている。そのため歩き疲れた観光客、とりわけシニアのツーリストは馬車に乗り、途中でバームクーヘンなど食べながら、旧市街に点在する観光名所を周遊するというわけだ。なんと馬車をチャーターしてホテルまで送迎することも可能だという。