担当した講談社の横山建城さんによると、構想は約20年前にさかのぼり、初稿は昨年に完成。「『応仁の乱』の便乗企画では全くないが、この時期の出版にこぎつけた背景に同書の影響があったのは確か」(横山さん)。峰岸さんは「関東を無視して応仁の乱は語れない。戦国時代の始まりは応仁の乱、という“国民的常識”を覆したい」とねらいを明かす。
◆歴史小説パス?
ヒットした室町本に共通するのは、教科書クラスの大きな事件を扱いながら、今まで一般向きの手頃な本が見当たらなかった点だ。
「源平期と戦国時代は人気だが、その間の室町時代についてはよく知られておらず、知りたいという潜在的ニーズは大きかった」と語るのは、作家の伊東潤さん。観応の擾乱の中心人物の一人で、室町幕府初代執事の高(こうの)師直(もろなお)を主人公にした小説『野望の憑依者(よりまし)』(徳間時代小説文庫)を7月に刊行した。
「いま一般の人が歴史への興味を満たす場合、歴史小説をパスして歴史新書に向かっている」と、歴史小説が担っていた需要を新書が吸収した結果だと読み解く。そうした悩ましい面もあるが、「一連の室町本のヒットで、小説の題材選びの範囲がいわゆる売れ筋以外に広がった。歴史作家としては非常に勇気づけられている」。『応仁の乱』を起爆剤にした室町本ブームは、他ジャンルにも波及してしばらく続きそうだ。