高台から見下ろす石造りの棚田は規則正しく斜面に積み上げられ、芸術的な景観を作り出していた。実りの季節を迎えた黄色い稲穂と、石垣のあぜ道に咲く赤い彼岸花とのコントラストが美しく、秋の深まりを実感する。
宮崎県日南市の内陸部、酒谷(さかたに)地区の標高約250メートルの斜面に広がる「坂元(さかもと)棚田」。屋根を葺(ふ)くため集落共有の茅場(かやば)だった場所を昭和3年から5年をかけて開墾し、約5ヘクタール、110枚ほどの棚田が完成した。
掘ればたくさん出たという周辺の石を削って利用した。専門家の指導で、地区の人々が家族総出で作業を行った。あぜ道などは馬耕用につくられているという。
坂元棚田では1口(1アール)3万5千円でオーナー制度を実施している。田植えや稲刈りに参加し、地元の人と交流しながら農業体験ができ、収穫米を受け取ることができると好評だ。
栽培されている米はすべてヒノヒカリで、「冷めてもモチモチしておいしい」と人気がある。高齢化と後継者不足で現在、約70枚の水田を7戸の農家で管理している。草刈りをしていた日高茂信さん(64)は「15年ほど前、棚田の米の味に感動したので、自分で作ってみることにしました。山からの水がいいですから」と汗を拭い。「この先も維持していきたいですね」と続けた。