「床屋談義」が楽しくなってきた 深い経験と結びつく外国文化の理解   (3/3ページ)

 なんとも微笑ましいのだが、もっと笑ってしまうことがある。

 小さな男の子を連れてくるママは紅一点だ。「男の世界」の人たちの顔には、どことなくウキウキした表情がでてくる。直接彼女に話しかけるわけでもなく、息子の発言にコメントをする。そしてちょっとママの気をひこうとするわけだ。ママはまるで男子の部室に迷い込んだ女子生徒だ。

 男ってバカな存在だ、とつくづく思う瞬間である。

 それにしても、床屋がこんなにもウキウキする場に感じられるようになるなんて想像もしていなかった。「旧世界」と呼ぶにふさわしい世界に愛着を持ち始めたのは、ぼく自身のイタリア経験が一周したようなものだろうか。

 イタリアに生活を始めた頃、ボスに次のように言われたことがある。

 「外国に住み始めて、その土地が分かると思う瞬間は、3日、3カ月、3年、30年という単位でおこるよ」

 ある程度のことは短期間で分かるし、分かった気にもなる。が、在住期間が増えるに従い、逆に分かった気になることが難しくなる。深く分かるにはもっと深い経験が必要だ、という声だけが内から聞こえてくる。

 さて床屋賛歌を書きたくなった、ぼくのイタリア文化理解はどうなのだろうか? 滞在が30年に近くなりつつある兆しなのか?(安西洋之)

【プロフィル】安西洋之(あんざい ひろゆき)

安西洋之(あんざい ひろゆき)上智大学文学部仏文科卒業。日本の自動車メーカーに勤務後、独立。ミラノ在住。ビジネスプランナーとしてデザインから文化論まで全方位で活動。現在、ローカリゼーションマップのビジネス化を図っている。著書に『デザインの次に来るもの』『世界の伸びる中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』 共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』。ローカリゼーションマップのサイト(β版)フェイスブックのページ ブログ「さまざまなデザイン」 Twitterは@anzaih

ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解するためのアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だが、異文化の対象は海外市場に限らず国内市場も含まれる。