抑制された職人の「欲」は人の心も動かす 工房で過ぎ行く静かな人生 (1/3ページ)

フォンデリア・アルティスティカ・バッタイアのロウのパートPhoto(C)Virginia Taroni. Courtesy Archivio Fonderia Artistica Battaglia
フォンデリア・アルティスティカ・バッタイアのロウのパートPhoto(C)Virginia Taroni. Courtesy Archivio Fonderia Artistica Battaglia【拡大】

【安西洋之のローカリゼーションマップ】

 工房と呼ばれるところに、これまで何カ所訪ねたかは覚えていない。3桁のかなり上の数であるのは確かである。家具、セラミック、ガラス、銀細工、テキスタイルなど分野は多岐に渡る。

 モノを作っている場を見るのは、それだけで心が躍る。

 トリノで仕事をしている頃、毎週、何回かはカロッツェリアに足を運んでいた。カロッツェリアはワン・オフ(オーダーメイド)や特殊なクルマの生産を手掛けている工房だが、当時、ぼくは関与していた少量限定生産のスーパーカーの生産進捗状況をチェックするためにカロッツェリア通いをしていた。

 最近も工房に行かないわけではないが、ずいぶんと減った。しかし、今月になって訪ねた工房で、心の底から何かふつふつと湧き上がってくるものを感じた。

 ミラノのフォンデリア・アルティスティカ・バッタイアという会社での経験だ。同社は世界各地で紀元前からある技法・ロストワックス鋳造(日本では蝋型鋳造と呼ばれる)で銅の彫刻を作っている。

 同社の設立は1913年。彼らの作品が一番よく見られるのは、ミラノ記念墓地である。  

 指揮者のトスカニーニなど著名人が眠る由緒ある墓地には、墓石周りに銅の彫刻が並んでいる。建築家やアーティストが考えたコンセプトの成果だが、この墓地にある9割の彫刻はフォンデリア・アルティスティカ・バッタイアで作られたのである。

量産サイクルとも工芸美とも無縁