墓地にお金をかける時代でもなくなった現在、同社で製作されたものがミラノ記念墓地に置かれることはなくなった。最後に納めたのは20年以上前だ。
主要なクライアントはアーティストか、アーティストが所属するギャラリーである。
アーティストが描いたスケッチかモデルをもとに、工房でアルティジャーノ(職人)が手を動かしていく。これまでぼくが見慣れてきた工房と雰囲気が変わらないといえば変わらない。
今回、何にぼくの心が動いたのだろう、と考えた。
この工房が産業界の末端に属していない、というのが理由の一つに思いつく。量産の生産サイクルに組み込まれていない。数が少ないから工房、という論理に嵌っていない。
一方、いわゆる工芸美の世界にも属していない。マエストロが何やら厳かな空間を作っているわけでもない。アーティストの右腕となっていながら、上下関係が感じられることもない。
ここは自分のブランドで作品を売るつもりがまったくない。変な欲が見えないのだ。とてもすがすがしい空気が流れている。
欲は誰でもどこの会社にもある。ただ、その欲が歪むかどうかは、欲を扱う人の技量による。
10年ほど前に言われた、ある人の言葉がたまに蘇ることがある。