【高論卓説】ピント外れの「残業代ゼロ法案」批判 高度人材を生かせぬ硬直した思考 (2/2ページ)

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 高プロ制度の背景にあるエグゼンプション(労働時間規制の適用除外)の考え方は、一定の拘束時間の下で働かされる労働者とは、別種の働き方をする人たちを念頭に置いている。いうなれば、マルクス主義が想定する資本家に搾取される「労働者」とは異なる。プロ意識を持った自立した人材である。

 こうした人材に能力を存分に発揮してもらわなければ、新しいビジネスや、人工知能(AI)、ロボットなどのイノベーションは期待できない。

 創造的な仕事に携わる高度人材には、成果だけを評価して自由に働ける環境を用意する必要がある。たとえ残業代がもらえても、定時出勤、定時退社の8時間勤務で、年功や労働時間の長さをベースに評価する制度は、ありがた迷惑だろう。

 日本の大手企業は一般に、新卒者を一括して採用し、一律の初任給から始める。協調性を重視して徐々に差をつける処遇制度で定年まで雇用する。

 多様性を認めないと、創造の芽を摘む恐れがある。

 3、4年前に東京大学工学部の教授から、こんな話を聞いた。大学に残したいと思った優秀な学生が大手化学メーカーに入社した。ところがサンプルづくりのような仕事ばかりさせられて戻ってきたという。「あれでは彼を腐らせてしまう」と教授は憤っていた。

 ICTコンサルティングなどのフューチャーの金丸恭文・会長兼社長グループCEO(最高経営責任者)は「企業もスーパースターの人材は最初から、ふさわしい扱いをすべきなのに、全員、球拾いからさせている」と言う。ちなみに同社は実力主義だそうだ。

 傑出した高度人材を求めたいのなら、「労働者保護」とは違う柔軟な思考が必要なのである。

【プロフィル】森一夫

 もり・かずお ジャーナリスト。早大卒。1972年日本経済新聞社入社。産業部編集委員、論説副主幹、特別編集委員などを経て2013年退職。著書は『日本の経営』(日本経済新聞社)、『中村邦夫「幸之助神話」を壊した男』(同)など。67歳。