なぜ日本は「発達障害大国」なのか 国別統計で常にトップレベルの理由 (2/6ページ)

 しかし、学生時代までは目立った問題はなくても、就職を機に、その特性を原因とするトラブルが発生することがある。「本人の努力不足」や「家庭のしつけの問題」「上司のマネジメントの不備」ではなく、発達障害の視点からのアプローチをすることでトラブル解決の糸口が見えてくることもある。日本人の10人に1人は発達障害の傾向がある。そんな指摘をする専門家もいる。大人の発達障害の問題点や、課題を探ってみよう。

 ▼「大人の発達障害」職場だと…

 Tさん●20代男性●会社員

 高学歴で各種スキルや語学力は高いものの、相手の意図するところを理解するのが苦手。新入社員の頃「わからないことがあれば、いつでも聞きにこいよ」といってくれた上司がおり、その上司が出席中の会議の席に「部長、わからないことがあるのですが」と聞きに行き、周囲を唖然とさせたこともある。「資料をつくってくれ」「臨機応変に対応しろ」など、あいまいな指示がわからず、上司から叱責されることもしばしば。自分の正当性を伝えようとするも「言い訳」「反論」と捉えられ、ストレスからうつ病に。診療科でうつ病の治療と同時に、心理検査や知能検査を受けASDであることが判明。

 Fさん●30代男性●SE

 国立の大学院卒業後、大手情報系サービス企業に就職。昔から「理屈っぽい」と評されるも、論理的で完璧主義的な性格はSEとして最適、上司からも「真面目で正確」と高く評価される。しかし、月200時間の残業が続いたプロジェクトが完成した直後から、心身ともに疲労感を強く感じ出社できなくなる。診療科では「適応障害」と診断。詳細な検査を受けると、ASDやADHDの診断は下りなかったが、その傾向は強く「ハイコントラスト知覚特性」があることが判明。まったく疲れを感じないか、突然体が動かなくなるほど疲れるかといった極端な知覚を持っていた。

 Kさん●30代女性●国家公務員

 昔から得意なのは理数系で、読書感想文は苦手。ストレスや疲れがたまると上下関係を配慮できず、上司に「そんなこともわからないんですか」といってしまったことも。中学、高校と不登校を経験しつつも、国家公務員として就職。整理整頓を重視するあまり、自分の机には“マイテプラ”も常備してある。職場では理解ある上司に恵まれ、得意な数学的知識も活かせる仕事に就いている。しかし、日常の「変化」に弱く、上司が配置換えで隣の列に移動した際は、パニックになり泣き出してしまった。海外赴任や流産などを機にうつ病を発症。「うっすらとASDとADHD」と診断される。

 病気ではないので「治す」ものではない

 官公庁や大企業が集まる東京の一等地、虎ノ門に「大人の発達障害外来」の看板を掲げるクリニックがある。「メディカルケア虎ノ門」だ。03年に五十嵐良雄医院長により開設され、うつ病や適応障害などの職場の精神的ケアに力を入れてきた。一般外来のほかにわざわざ「大人の」と銘打ち発達障害外来を掲げた理由を五十嵐院長はこう語る。

 「うつ病などのために仕事を休職し、当院で復職のためのプログラムに参加している方の約3割は、実は発達障害が根っこに潜む。その場合、仮にうつ病を治しても根本的な問題は残ったままで、またすぐに職場で問題が生じてしまうため、うつ病の治療と並行して発達障害専門のケアが必要になるんです」

「発達障害には基本的に薬はない」