【視点】裁量労働制拡大を先送り 生産性高める改革から逃げるな (1/3ページ)

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 □産経新聞論説委員・井伊重之

 「働き方改革」を最重要課題に掲げる安倍晋三政権が、その目玉と位置付ける裁量労働制の対象拡大をめぐり、国会答弁で不適切な統計データを用いて法案提出の撤回に追い込まれた。

 大臣の失言やスキャンダルなどで法案が成立断念に追い込まれたり、国会戦術の一環で法案提出を見送ったりする事例は過去に何度もあった。だが、今回は政府が法案の説明に使った統計データが誤りだったとして首相が国会答弁を撤回した揚げ句、法案の国会提出も先送りされた。前代未聞の事態である。

 この法案に野党は以前から強く反発し、3年も国会審議が棚ざらしされていた。今回の不適切データによる説明も3年前に用意され、これまでも大臣の国会答弁で使われていたというから驚く。答弁を作成した厚生労働省は統計データを検証することもなかった。その責任は重大だ。

 ただ、裁量労働制とは労働時間の短縮を目指すものではない。限られた時間でいかに効率よく働くかを促す制度だ。答弁のデータが間違っていたのは論外だが、その説明が意図した方向性にも問題があった。

 ここで考えなければならないのは、裁量労働制のあり方である。法案が撤回に追い込まれたのはずさんなデータのせいだ。裁量労働制の必要性に変わりはない。先進国の中で最低水準が続く日本の労働生産性を引き上げるためにも、労働市場改革は避けて通れない。

現行の労働法制は旧工場法の枠組みで定められた