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■均質な体制が必要 「病院の連携と協力がカギ」
がんゲノム医療を公的医療保険で使うには、全国で均質な体制が必要になる。厚生労働省は準備を急いでおり、3月までに全国で11カ所の「がんゲノム医療中核拠点病院」と、100カ所の「がんゲノム医療連携病院」を指定した。
中核拠点病院に指定される条件には、(1)網羅的な遺伝子検査(遺伝子パネル検査)を実施する体制がある(2)その結果を医学的に解釈する専門家チームがある(3)専門的な遺伝カウンセリングができる(4)新薬を開発する体制と実績がある-などが挙がる。
中核拠点病院に指定された病院では、遺伝子パネル検査を国の「先進医療」で行う動きが活発だ。国立がん研究センター中央病院に続き、東大医学部付属病院(東京都文京区)も4月下旬、検査が先進医療に認められた。京大医学部付属病院(京都市)も今夏には、先進医療で始めたい考えだ。
京大大学院医学研究科の武藤学教授は「保険適用になったときに医療機関の診療レベルに地域格差が出ないよう、中核病院同士の協力は不可欠。また、がんゲノム医療を、必要とするすべての患者に届けるには、連携病院でもパネル検査や治療決定ができるよう、支援していく必要がある」と話している。
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◆「環境整備が急務」
遺伝性疾患の当事者団体「ゲノム医療当事者団体連合会」の太宰牧子理事長の話 「がんゲノム医療が先進医療で始まったが、患者負担は高いのに治療に結びつく確率はまだ低く、期待と現実に落差がある。医療職は一例一例、丁寧に経験を重ねてほしい。患者も技術の進歩を享受するには相応の情報と知識が必要だ。それがないと、薬が見つからなかったときのダメージが大きい。10年後には、がんの遺伝子検査があたりまえになると思う。遺伝情報の取り扱いをはじめ、家族性の遺伝子変異があっても差別されない体制づくりなど、社会的な環境整備が最大の課題だ」
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【用語解説】がんゲノム医療
患者のがん細胞の遺伝子変異を調べて、一人一人に合った抗がん剤を選ぶ個別化医療。
現在は、がんができた場所によって治療薬が決まるが、がんの場所が違っても、がん発生の原因となった遺伝子変異が同じなら、同じ薬が効く可能性がある。
特定の遺伝子変異をターゲットにした既存の薬には、セットで検査薬が開発されるが、1種類の遺伝子変異しか調べない。100種以上の遺伝子変異を一度に調べられれば、発生頻度の低い変異も見つけられる。例えば大腸がんの患者に乳がん患者の遺伝子変異が見つかれば、効果の期待される乳がんの薬を選ぶことも可能になる。