「発酵」における文化的理解を深めよう 和食の新たなアプローチを切り拓く (1/3ページ)

発酵文化人類学(C)小倉ヒラク
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【安西洋之のローカリゼーションマップ】

 和食を欧州市場で広める売り文句を見たり聞いたりする機会が多い。すると気になる定番のフレーズがある。

 「西洋文化が一般に浸透する前の時代から、日本の人は食材の選択から調理に至るまで、健康を意識した英知溢れる工夫をしていた。だから和食は世界に誇れる資産であり傑出した文化である」

 こうして、昔の人々も健康を意識してヘルシーな料理を作っていたことを強調する。

 しかしながら世界各地で、体調を気にしない郷土料理はあっただろうか。食べて胃腸の調子がおかしくなれば普及しないし、あまりに腹持ちが悪ければ何らかの改良をして、より問題のない食生活を送ろうとする。あるいは健康に悪いと思っても、美味に惹きつけられる人の嗜好に基づき、全体のバランスを踏まえ食文化は成り立っている。

 先週、『発酵文化人類学-微生物から見た社会のカタチ』を書いた小倉ヒラクさんがミラノに来た際、イタリア人女性食ジャーナリストを紹介した。彼女のインタビュー取材中、小倉さんの回答に対する彼女の反応を眺めながら、「和食世界最強論」に傾きすぎないバランサーとして「微生物のエコシステム論」が有効であると思った。

 「日本は湿気が高く、微生物の種類は比類なく多いです。一方、家畜の肉を食べる習慣がない。こういうところで海産物や野菜など限られた材料を十分に活用し、かつ美味しいと思える食事をする。これらの要素がたまたま重なり、サバイバルのために発酵に頼る和食のレシピを生んだのです」という小倉さんの説明は十分に説得性があった。

発酵にかかわる微生物は東西で違う