記者会見のNGワード「イ・ゴ・オ・シまい」から見る「炎上が炎上を呼ぶ」理由 (2/5ページ)

  • 田中優介『スキャンダル除染請負人』(プレジデント社)

 “岸”という発想を持ち、誰に謝罪すべきかを考える

 すがる表情の三波に、沙希はマスコミ対応の要点を意識的に厳しい口調で語った。

 「第一に、嘘は絶対に言わないで下さい。新たな罪を犯すことになりますから。第二に、“岸”という発想を持って、誰に向かって謝罪すべきかを考えて下さい」

 「……岸ですか?」(第1章 不倫未遂の罪より引用、以下同)

 著名な女子サッカー選手である吉田茜とホテルで“密会”する姿を週刊誌に撮られてしまった製薬会社社長の三波。相談を受けた危機管理コンサルタントの橘沙希は、三波に対し、マスコミ対応の要諦を指導します。

 ここでいう「岸」とは、加害者と被害者という2つの岸を指します。

 ややもすると加害者が社長の三波、イメージダウンする吉田選手が被害者と考えがちですが、企業の危機管理という側面から見れば適切ではありません。

 この場合の加害者は三波社長と吉田選手、および彼女が所属するサッカーチームの監督やフロントであり、被害者は三波社長の夫人、そして日本中の主婦と考えるべきです。

 なぜなら未遂に終わったとはいえ、三波が吉田選手と同宿していたことは事実であり、2人は日本中の主婦に嫌悪感や不安感を与えたと考えるべきだからです。

 したがって、三波社長が謝罪すべきなのは、吉田選手のファン、所属チームのメンバーや株主、取引先、自分の妻、そして日本中の主婦なのです。

 沙希のアドバイスにしたがい、記者会見の場で未遂とは言え不倫の意図があったことを包み隠さず認めた三波社長に対し、記者たちも彼の正直な人柄に好感を抱き始め、それ以上の追及をしないようになりました。後述するように、マスコミには「嘘を追いかける習性」があるからです。

記者会見は論争の場ではない