【著者は語る】慶應義塾大学商学部教授・中島隆信氏『新版 障害者の経済学』


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 ■「社会を映す鏡」に学び問題の改善策探る

 障害者は社会では特殊な存在とみなされがちです。もちろん身体に深刻な機能不全を抱える人がいるのは事実ですが、そうした人たちを分け隔てすることはあまり得策とはいえません。

 この本は、経済学的思考法を障害者問題に応用し、社会の改善に役立てようという趣旨から執筆しました。

 経済学では社会現象の背後にある要因を深く探ります。すると、多くの現象がお互いに根っこでつながっていることが分かります。これが経済学における一般化の手法です。

 たとえば、障害児のいる夫婦の離婚率は高いといわれますが、それは子供のせいではありません。原因の多くは、子育ての責任を母親に押しつけ自分本位な態度をとる父親にあります。でも、そうした父親は障害児を持つ家庭にだけいるのでしょうか。一般の家庭では子育ての心理的な負担がそこまで重くないうえに、いずれ子供が自立していくので表面化していないだけではないでしょうか。

 近年の障害児が通う特別支援学校は就労支援に力を注いでいます。なかには就労率100%をウリにする学校もあります。そうした学校には選抜試験がありますので、その対策を伝授する学習塾も登場してきています。「それはさすがにやり過ぎだ」「特別支援教育の目的は就職なのか」という疑問が湧いてきますが、これも障害児に限った話ではありません。「教育は何を目指すべきか」という一般的な問題が障害児の存在によって炙(あぶ)り出されたにすぎません。

 過労による自殺をきっかけに「働き方改革」に注目が集まっています。その真の目的は「働き方を人間に合わせる」ことにより、国民の幸福度と生産性の向上を両立させることでしょう。どう実行に移すかが鍵ですが、実は障害者雇用にヒントがあります。企業が障害者を戦力にするコツは、障害者の「できるところ」を見いだし、仕事に結びつけることです。経済学では、それを「比較優位の原則」と呼びます。つまり、障害者雇用の手法を一般の雇用に応用すれば、自然に「働き方改革」が実現できるのです。

 このように障害者は「社会を映す鏡」なのです。私たちは障害者から多くを学ぶことができます。その第一歩としてこの本をご活用いただければそれにまさる喜びはありません。(1728円、東洋経済新報社)

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【プロフィル】中島隆信

 なかじま・たかのぶ 1960年神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。同大学経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。2001年より慶應義塾大学商学部教授。これまで経済学の思考法をさまざまな分野に応用し、新たな視点を提示する多くの著作を発表している。著書に『日本経済の生産性分析』(日本経済新聞社)、『大相撲の経済学』(東洋経済新報社)、『刑務所の経済学』(PHP研究所)、『経済学ではこう考える』(慶應義塾大学出版会)などがある。