【著者は語る】新宿調理師専門学校 学校長・上神田梅雄氏「人生で大切なことは、すべて厨房で学んだ」 (1/2ページ)


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 ■夢ある努力は必ず素質を超える

 最近、テレビなどで調理師や料理人がもてはやされ、いかにも華やかな世界の人々のように喧伝(けんでん)されています。しかし、それは一部の人の話で、大方の調理師などが置かれている環境は、楽でも華々しくもありません。それでも、「調理師・料理人はおもしろい」、そして「男子でも女子でも、一生涯を賭けるに値する仕事だ」と私は声を大にして訴えたいと思います。

 なぜか? その問いの答えとして書いたのが本書、『人生で大切なことは、すべて厨房(ちゅうぼう)で学んだ』です。

 調理師・料理人の仕事場である厨房は、飲食サービス業というビジネスのなかでも、まさに主戦場といえます。一方で、人生道場でもあります。とりわけ私が修業をしてきた「さらし」と呼ばれる割烹(かっぽう)カウンターは、生き生きとした実学の最前線であり、実践の学びの場でもありました。まさに「人は人にもまれて人になる」のです。

 私は、調理師・料理人の使命を、天地の働きによって生まれた食材、すなわち天与の恵み、命の源を慎んでいただく、その介添え役だと思っています。「大げさな…」と言われるかもしれませんが、自然への思いを欠くと、「おもてなし」とは真逆の奢(おご)り高ぶった心の調理師・料理人になってしまうのではないかと恐れます。そんな心の調理師・料理人がつくる料理が美味(おい)しいはずもありません。

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