ミラノの創作系男子たち

シンプル=ベスト? 興味あるのはデザインの裏にある「事情」 (2/3ページ)

安西洋之

 ヴェネツィア大学で経済学を勉強した後、ミラノ工科大学工業デザイン学科に進んだ。しかし卒業後にデザイナーになる道を自ら捨てた。

 「ボールペン1つとって、もうごまんといる優秀な人がデザインしている。そのなかの1人にはなりきれないと思ったのさ。そのかわり、ぼくはそれらの過去の作品の数々を、今の時代に合わせて編集しなおすことに興味があることに気づいた」と今のビジネスに入る契機を語る。

 ぼくは、彼の仕事はコンテクストをつくるクリエイターであると考え、この連載に登場してもらおうと思ったのだ。

 ショールームとなっている3階建ての元工場には、ぎっしりとコレクションの数々が並んでいる。オンラインとリアルの両方で販売しているが、顧客はイタリアが20%、イタリア以外の欧州が30%、残りが米国・中近東・アジアなどだ。

 オフィスの本棚には膨大な冊数のデザイン関係の書籍・雑誌とメーカーの古いカタログが並んでいる。展覧会や店舗設計あるいは舞台美術など、さまざまなところからコレクションの貸し出しのリクエストもあり、リクエストを受けるたびに、これらの資料に手を伸ばす。

 しかし、本のページを何気なく開くことも少なくない。どの時代の誰のデザインということを決めず、ふと手にとる。

 気分と直観と言うしかない。そうして眺めた写真にある家具と突然のリクエストが偶然に一致することもある。したがって、できるだけ自分の頭のなかに仕切りを設けないようにしておくよう努める。

 だからといって、アポイントの先に向かう時、途中で興味をひくものが目についたからと我を忘れるタイプではない。「1分だけ見ておく」といった時間配分を忘れない(これが、デザイナーを目指さない性格なのだろうか)。しかも、カメラで記録を残すようにしている。

 ミラノ市内の移動は自転車か公共交通機関の利用を好み、クルマの運転をなるべく避けるのも、身をフリーにしておきながら、視界に入った人の服装や店のショーウインドーにあるものを瞬時に「捕まえる」ためではないだろうか。

 好奇心旺盛な行動パターンである。

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