【書評】『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』河合香織・著

 ■短くも生きた愛息めぐる苦悩

 出生前診断で「異常なし」といわれながら、生まれた男児はダウン症で、3カ月後に亡くなった。医師の説明ミスに対し、男児の両親は「出産するか中絶するかを自己決定する機会を奪われた」と損害賠償請求訴訟を起こした。

 自身も出産で悩んだ日々があり、提訴に違和感を覚えた著者が男児の母親への取材を始める。

 奇跡的に生を得て、短くも生きた男児「天聖(てんせい)」から教えられたものとは…。裁判の行方とともに、出生前診断をめぐり悩みを抱えてきた人たちへの取材から「命の選別」に直面する苦悩が立ち上る。渾身(こんしん)のノンフィクションだ。(文芸春秋、1700円+税)