ゆうゆうLife

家族がいてもいなくても(603) 年甲斐もなくハグ (1/2ページ)

 鏡を見たら、数週間前の鼻の下のすり傷が、やっと完治していた。

 あらためて、あの日のことを思い出し、自分のおろかさにため息をついた。

 実は、中庭を挟んで住む隣人と立ち話をしていて、私がいきなり彼女にハグをしたのだ。

 で、2人もろともに転倒。被害者の隣人は尻もちをつき、加害者の私は目の前のベンチに鼻の下をぶつけたという次第。彼女は青あざ、私は鼻の下ばかりではなく膝小僧もン十年ぶりに擦りむき血が滲(にじ)んだ。

 その日、食堂に行くと「ハグしたって? なに女学生みたいなことをやっているの。年を考えなさいよ」とあきれられた。確かにその通り。もし尻もちで、彼女の腰にひびがはいっていたらなんて思うとゾっとする。

 そもそもこの事故のきっかけは、私のエッセイ集を読んだ彼女から、「生まれ育った故郷のことが書いてあったのよ~」と言われたこと。そう、四国の久万高原(くまこうげん)。朝霧の美しい土地に東京から女一人で移住した知人を訪ね、はるばる旅した時の話。彼女はそこを読んで嬉(うれ)しくなっちゃった、と。

 「あそこが、あなたの故郷なの!」「そうよ、そうよ」

 という会話でテンションがいっきにあがり、年甲斐(がい)もなく私は彼女にいきなりハグしてしまったのだ。

 さらに先日のこと。

 那須の廃校で行われたイベントで、ボランティアに来ていた同世代の方と話していたら、なんと私の育った北海道の町の高校に通っていたという。

 「その女子高の前を、私はね、毎日、通っていたのよ。朝礼の時、牛が鳴いたりして」「ユートピア牧場ってあったよね」「そうそう」

 と故郷の話で盛りあがった。

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