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かんぽ不正が晒した構造的問題 郵便局がコンビニに代替される日も遠くない (2/3ページ)

高橋成壽
高橋成壽

コンプライアンス意識の欠如か内部統制の欠如か

 かんぽ生命は苦情の把握がされていたとしています。しかし、経営陣には声が届いていなかったか、苦情を過小評価していたのでしょう。これでは企業統治ができていなかったと言われても仕方ありません。

 経営陣が聞く耳持たなかったのか、不都合な声を経営陣に届ける体制ができていなかったのか、今のところわかりません。かんぽ生命のような大企業において、経営者に対して自分の任期中に不祥事を積極的に公表、改善するようなインセンティブが働いているとは思えません。むしろ、自分の任期中には何も起きて欲しくないと考えるのが普通ではないでしょうか。

 少なくとも、筆者には目標達成が不可能な数値が各郵便局に振り分けられ、それを達成するために、不正販売に手を染めざるを得なかったのではないかと考えています。少し話がそれるようですが、山口周氏の著書「世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?」では、利益追求が過ぎると、コンプライアンス違反が発生すると暗示しており、今読み返すと予言のようでもあります。

 今回の不祥事は日本郵政グループに限らず、どの企業にも当てはまることでしょう。筆者が、民営化とそれに伴う株式上場が今回の問題を根本だと指摘する理由のひとつもそれで、利益追求の姿勢があまねく郵便関連サービスを提供するという企業理念をゆがめてしまうからなのです。

民営化と株式上場で背負った“重荷”

 政府の保有する郵政グループ各社の株式を高い値段で売却したいという意向や、上場企業が株主のために利益を確保しなくてはならないという事情もあるでしょう。一般的に企業の株価は、将来の業績を反映していると考えられますから、将来高値で株式を売却したい場合、短期的に利益を増やしたいという考えはなかったでしょうか。上場株式であれば、株主への配当の還元や、株価の安定的な上昇を実現するのに、利益追求を優先し顧客に対する敬意が払われていなかったのではないでしょうか。

 郵便局の簡易保険の販売は、民営化前からずさんであったという意見もあるでしょう。金融庁が監督庁として目を光らせたからこそ、今回の事案が公になった可能性も否定できません。

 筆者は民営化、株式の市場放出に伴い、無理な経営目標が設定されたと感じます。保険商品の販売は難しく、保険業界の離職率の高さが販売難易度の象徴とされています。一方で、郵便局は、生活インフラとして定着しており、住民は郵便局職員の名前を憶え、親しい友人のような人間関係を構築しています。職員もひとりひとりの顧客の顔と名前が一致するような距離感ですから、お中元、お歳暮、年賀状や暑中見舞いはがきなど、必要に応じて提案するというより、お願いベースで購入にいたるようなこともあるでしょう。

 住民にとっての生活インフラである一方、運営する日本郵政グループにとっては、郵便局が収益を上げるための仕組みの最前線です。家族のように信頼している郵便局員から、必要性の薄い保険商品を提案されて、断るのは難しいだろうことは想像に難くありません。

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