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染色体の形は細胞分化と共にこう変化/光電子を通じた電子の軌道混成状態観測 (1/3ページ)

 理化学研究所 生命機能科学研究センター 発生エピジェネティクス研究チーム チームリーダー・平谷伊智朗

 ■染色体の形は細胞分化と共にこう変わる

 哺乳類細胞では、染色体の1本1本は、約1Mb(メガベース=100万塩基対)のDNAが球状に折り畳まれた「トポロジカルドメイン(TAD)」と呼ばれる構造が数珠つながりになった形をとっており、複数のTADがさらに空間的にまとまった配置を取っている。この配置は、遺伝子の発現と密接な関わりがあるとされ、遺伝子が転写されやすいTADが集まった空間をAコンパートメント、転写されにくい空間をBコンパートメントと呼ぶ。核内での染色体の形や位置は細胞種によって異なり、細胞分化の際には染色体構造が変化すると考えられるが、TADのようなMbレベルの階層でどのように変化するかは、全く分かっていなかった。

 今回、理研を中心とする共同研究チームは、マウスES細胞の分化に伴う染色体の三次元構造変化を調べ、これがTADを単位とする核内配置の変化(A/Bコンパートメント変化)であることを1細胞レベルで突き止めた。この核内配置の変化は染色体上のさまざまな領域で生じ、その領域の遺伝子発現の活性化とよく対応し、しかも核内配置変化が遺伝子発現の活性化よりも先に起きることも分かった。このことから、染色体の三次元構造変化を調べることで、将来の遺伝子発現変化を予測できる可能性が示された。

 本研究成果は、哺乳類染色体の三次元構造の構築原理に迫るものであり、染色体の構造変化と遺伝子発現制御の統合的な理解にもつながると期待できる。

【プロフィル】平谷伊智朗

 ひらたに・いちろう 2003年東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻博士課程修了(平良眞規研究室)。米国フロリダ州立大(David Gilbert研究室)ポスドク、国立遺伝学研究所(助教)等を経て13年暮れより現職。

 ■コメント=哺乳類染色体の三次元構造の構築原理と発生制御様式を独自の視点で解き明かしたい。

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