静けさ・緑・空間を守るための一工夫
由布院を訪れた観光客が多く歩く、JR由布院駅前から続く「湯の坪街道」は、週末や夏休み時期には人波で混雑する。通りの左右には土産物店や物販店が立ち並ぶ。
旧「湯布院町」は、世の中がバブル経済期だった1990年9月5日「潤いのある町づくり条例」を制定し、自然環境や景観、生活環境に配慮した建物や屋外広告物を規制した。その後の合併で「由布市湯布院町」となった現在も、規制を続けている。
だが、理想と掲げる「静けさ」と「混雑」は矛盾する。それでもやり方はあるだろう。
「地震直後は、こんな時期にお越しいただいた観光客の方に、関係者が大分川沿いを案内しました。少し前は取材に同行し、庄内町阿蘇野の『名水の滝』にも行きました。喧騒から離れたいと希望される方には、こうした場所も紹介したいのです」(生野氏)
激増したインバウンド(訪日外国人)への「マナー訴求」も続けてきた。以前は、公衆トイレの詰まりや、川へのゴミ捨てなどに悩まされたが、湯の坪街道のトイレに担当者を立たせて粘り強くマナー啓発を続けた結果、かなり改善されてきたという。
住民が幸せだからこそ「もう一度行きたい温泉地」になる
実は、由布院関係者が懸念する大型施設がある。あの「星野リゾート」が由布院の高台に進出するのだ。まだ開業していないが、建築計画をめぐっては、市の関係部署と綱引きがあり、総部屋数50室を45室で減らすことで決着したと聞く。
筆者は星野リゾートも何度か取材してきた。企業姿勢や取り組みには一定の評価をしているが、「米国型の星野リゾート」が「欧州型の由布院」に合うのだろうか。
中谷氏の言葉を借りれば、「“お婿さん”が来て、力を貸してくれるのはありがたい」が、「俺が婿だ、と声高に主張し“家訓らしきもの”を守れるのか」になるからだ。
一方で、由布院には「地者(じもの)も余所者(よそもの)も一体化」してきた歴史がある。この地を訪れて魅了され、定住して生活するようになった人も多いのだ。
「出会いを排除しない」という意識も、当地の哲学に残る。「まずは住む人が幸せであること」という生活型観光地が、観光客や観光業者を由布院ファンとして一体化できれば、「もう一度行ってみたい温泉地」として突き抜けた存在になるだろう。
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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)(PRESIDENT Online)