リスク・ホメオスタシス理論とは、1982年にカナダの学者が提唱した理論である。自動車の安全性を高めても、ドライバーは安全になったその分だけ利益を求めて危険性が高い運転をする。それによって、事故率は一定の範囲を超えないとする考え方だ。
“危険行為”も監視
ABSがあるからブレーキ操作が粗くなる。障害物ストップ機能があるから後方確認をしなくなる。ハンズオフで誘導してくれるからよそ見をする。そんな危険性が心配される。だから、日産のこの技術では事故率はさがらない。スマホ運転を助長させるだけである。そう心配した。
た・だ・し…。そこはそこで日産は、本末転倒の技術に埋没しないように手を打った。ダッシュボード中央のカメラが、ドライバーの前方注意を絶えず監視している。よそ見運転をすると機能が遮断されるのである。
ためしに、眼を細めたり横を向いたり、あるいは膝下に視線を落とすと、前方注意喚起の警告音が鳴る。それを無視していると機能が解除される仕組みなのである。だからスマホ運転はできない。賢い機能である。
ちなみに、サングラスをして実験しても、結果は同様だった。赤外線での監視だから、レンズも通す。リスク・ホメオスタシス理論を覆してみせたような気がした。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。