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親と「介護のカネ」の話をするときの大事なコツ 親には親の理屈とプライド (4/4ページ)

 観察と下準備のひと手間が合意への最短ルート

 かくして、父と息子の「腹を割って話そうタイム」がやってきた。その日は、午前中にもの忘れ外来の受診付き添いがあり、昼食をはさんで午後になった。夫が口火を切るのを今か、今かと待っていたけれど、なかなか切り出さない。昼食を終えた義父は少し眠たそうで、今にも「昼寝をする」と寝室に行ってしまいそうな気配もあった。おとうさん、寝ちゃうよ!

 そのとき、夫が動いた。

 「親父、話がある」

 「うむ」

 リビングの空気がピンと張りつめた。あまりの緊張感に笑い出しそうになる。今にも切腹が始まりそうな雰囲気なのである。

 「これからもいろいろあるだろうから、今後必要な支払いの手続きを代行させてくれないか」

 「わかった。よろしく頼む」

 「親に向かって指図するとは何ごとか!」

 遠回しながら、財布を預かりたいと申し出た夫に対し、義父はまさかの即答の「イエス」。予想外のスピードで、親子経済会議は合意に至った。このとき、義父がどう感じていたのかはわからない。しかし、あっさりと承諾してくれたのは、事前準備の賜物(たまもの)だったことが、ほどなく判明する。

 その後、義父母は医師に勧められ、「デイケア」(通所リハビリテーション)に通い始めたものの、義母が早々に「行きたくない」とストライキを起こした。ヘルパーさんから連絡を受けた義姉が、「わがままを言わず、約束通り行ってほしい」「行ってくれないと心配で仕事に集中できない」という言葉で説得を試みたことが、義父の逆鱗(げきりん)に触れたのだ。

 義姉が伝えた説得材料は、奇異なものではない。子ども側が「心配だから」「放っておけないから」などと訴えるアプローチは“介護あるある”であり、時には「親は泣き落としに弱いから」と勧められることもある。だが、義父には逆効果だった。

 「親に向かって指図するとは何ごとか! 今日は何があってもデイには行きません。絶対に休みます!」

 義父はすさまじい剣幕で怒り、さっきまでごねていたはずの義母がオロオロと取りなすほどだったという。まったく一筋縄ではいかない。しかも、数日後に「みなさんがデイでお待ちです」とヘルパーさんが声をかけると、何ごともなかったように、夫婦そろってニコニコと送迎バスに乗り込んだというから驚きだ。

 いくら介護が必要になったとしても、親には親の理屈があり、プライドもある。納得に至るツボも人によって異なる。日頃から親の言動を観察し、その性格や価値観をふまえ、受け入れやすいであろう筋道を探る。そのひと手間を惜しまないことが、経済的な負担はもちろん、介護にまつわる心理的負担や身体的負担の軽減にもつながる。

島影 真奈美(しまかげ・まなみ) ライター・編集者
 1973年宮城県仙台市生まれ。国内で唯一「老年学研究科」がある桜美林大学大学院に社会人入学した矢先に、夫の両親の認知症が立て続けに発覚。「介護のキーパーソン」として別居介護に参戦し、仕事・研究・介護のトリプル生活を送る。その体験をもとに、新聞や雑誌、ウェブメディアなどで広く執筆を行う。近著に『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)。

 (ライター・編集者 島影 真奈美)(PRESIDENT Online)

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