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台風の進路を的中させるには、あと何が必要か AI進化で「ヒト」は不要か (2/2ページ)

 台風の進路がどこを通り、どこが東側に入るのか

 ただし、9月に発生した台風15号では、上陸前に予想進路が微妙にずれていき、上陸場所もなかなか定まらなかった。前述した大規模停電も起き、千葉県を中心に多くの人が不自由な生活を長期にわたり強いられることとなった。

 「今も復旧していない地域もあり、誇る気はありませんが、弊社の予報センターでは独自の観測データの気圧の変化から、千葉市付近への上陸を予想していました。一般的に台風の進行方向の右側は、風が特に強まりやすい(危険半円)とされており、台風15号でも、停電被害は台風の進路の東側だった千葉県で特に大きくなっています。

 台風15号がもう少し西寄りの進路をとり、東京都が台風の東側に入っていたら、被害はもっと大きかったかもしれません。台風の進路がどこを通り、どこが東側に入るのかを詳細に知ることは、今後、被害を想定するために欠かせない情報です」(石橋氏)

 「ウチの地元はどうなる」に答えられるか

 多くの人が気になる「台風情報」は、刻一刻と変わる。特に知りたいのは、自宅や勤務先・通学先の状況だろう。ただし、ピンポイントの予測は道半ばだ。

 「現在のスーパーコンピューターが行う台風予報では、台風により、私の街に、家屋やライフラインにどの程度の被害があるのかは、直接的にはまだわかりにくいところです」

 こう説明しつつ、石橋氏は今後の情報技術の進化に期待を寄せる。

 「ただし、過去の台風の進路や勢力とともに、実際に観測された風速や雨量、台風による各地の被害をビッグデータとしてAIに学習させることができれば、台風の進路や勢力に合わせた、一人ひとりのための被害予測の実現が期待できます。例えば、昨年の台風21号・台風24号、今回の台風15号で弊社が行った停電の調査からは、最大瞬間風速と停電被害との関係が徐々に見えてきています」(同)

 人力入力の情報とAIの画像分析を相互補完させる

 台風15号の停電報告と暴風エリアの関係については、同社のウェブサイトでビッグデータ分析の結果が公開されている。

 10月12日に日本に上陸した台風19号でも、10万人を超えるユーザーから浸水/冠水・暴風被害・停電に関する約35万件もの回答が寄せられ、冠水の状況などを速報した(リンク先は15日時点での一次集計の結果)。

 同社は「台風が地上に近づいてからは、さまざまな機器に搭載されたIoTセンサー(スマホの気圧計などもその一つ)のビッグデータ分析から、予測を行う」ことも進める。前述した、ウェザーリポーターからの情報も有力コンテンツになりそうだ。

 「AI」が進化すれば、これまでの気象予報士に代表される「ヒト」は不要なのだろうか。そうとも言い切れないそうだ。

 「天気予報の精度は、予報を計算する上でのデータの多さが決め手となります。予報の計算の基となる情報がリアルで多いほど、計算結果はリアルに適したものとなり、より気象情報の精度が増す。当社が1日約18万通の天気報告を寄せる“ウェザーリポーター”の協力を仰ぐのはそのためです。一方、AIは学習能力がケタ違いですから、学習する元データがきちんとしていれば、より効果を発揮します」(石橋氏)

 つまり相互補完する存在なのだという。前述したように、AI分析により、これまで気づかなかった部分も解明されてきた。問題はこの先だろう。

 ただしスマートフォンがなければ、情報が届かない

 「日本は世界一の気象情報先進国」とも言われる。地震や台風などの天災が頻繁に発生し、狭い土地に1億2000万人もの人が暮らす国土の成り立ちもある。先進国の中でも国家予算は多い。WN社をはじめ民間企業も、さまざまな情報コンテンツを提供している。

 通常の気象予報の場合は、利用者にも便利だ。筆者も「ウェザーニュースアプリ」で、訪問先の天気動向を時間帯でチェックする。朝方に雨が降っていても10時以降は晴れるといった予報が、かなりの確率で当たる。

 問題は、このようなサービスの恩恵を受けるにはスマートフォンが必須であることだ。特に災害時に弱者となる子供や高齢者には、スマートフォン以外の手段で情報を届ける必要があるだろう。AIやIoTの進化を減災にどう役立てるか。公的機関と民間企業のさらなる連携に期待したい。(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

■高井 尚之(たかい・なおゆき) 経済ジャーナリスト/経営コンサルタント。1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

(PRESIDENT Online)

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