ヘルスケア

なぜ日本では「オンライン診療」が普及しないのか (2/2ページ)

 コロナショックは「オンライン診療」を促進させるか

 しかし、潮目は変わるかもしれない。オンライン診療はコロナウイルスの感染拡大を抑えるのに有効とされるからだ。政府は「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」(2020年2月25日)において「感染防止の観点から、電話による診療等により処方箋を発行するなど、極力、医療機関を受診しなくてもよい体制をあらかじめ構築する」としている。

 実際、血圧などの症状を確認して薬を処方する慢性疾患等であれば、オンライン診療を促進する余地は大きい。コロナウイルスで重度化のリスクが高い高齢者を守ることにもなろう。厚生労働省は2月28日、慢性疾患等の患者に対するオンライン診療および服薬指導を認める事務連絡を出している。

 医師が電話や情報通信機器等を用いて診療を行い、医薬品の処方箋を薬局にファクシミリ等で送付した場合、「電話等再診料・処方箋料」として診療報酬を請求できるものとした。慢性疾患の患者に限らず、コロナウイルスへの感染が疑われても、保健所で検査が受けられない者や軽度の感染患者についてもオンラインで経過を観察するようにすれば、感染リスクを抑えられる。風邪など緊急性の低い病気についてもオンラインでの対応は可能だろう。規制改革推進会議(2018年5月11日)も病気によっては「初診は対面診療」という縛りを除くべきとしていた。

 他方、オンライン診療で気軽に受診できるようになれば、安易な受診が助長されることを懸念する向きもある。無論、対面診療であっても感染を不安視する患者が病院などに殺到するかもしれない。その背景には患者が病院・診療所を自由に選べるフリーアクセスがある。フリーアクセスは平時においてもコンビニ受診や重複受診など無駄な医療の温床になっているとの批判がある。

 「かかりつけ医」の制度を拡充も感染防止に役立つ

 一方、非常時には感染拡大というリスクを伴うことになる。ではどうするか。オンライン診療を含めて「かかりつけ医」の制度を拡充させる。かかりつけ医とは「健康に関することを何でも相談でき、必要な時は専門の医療機関を紹介」(日本医師会)する医師を指す。専門医の診察を受ける前にかかりつけ医が診察するようにする。

 患者の症状から軽症であれば、自身で治療を施し、高度な治療が必要と判断すれば、専門の病院を紹介する「ゲートキーパー」の役割を担う。専門医・病院は重度の感染者を含む入院患者の治療に専念できるようにする。また、かかりつけ医を通して軽症患者の容体の経過をモニターする。

 新型コロナウイルスの感染の疑いのある、あるいは症状のない個人についてもかかりつけ医がスマホやパソコンなどでもって感染予防に向けた指導をしたり、検温の結果など報告を求めて早期発見に繋げたりすることができる。これまで医療提供体制は患者=病気になった人だけを対象としてきた。医療機関は人々が病気になるのを待って、事後的に治療を施してきたともいえる。これを改めて、診療に加えオンライン等を通じた健康管理もかかりつけ医が担うようにすべきだろう。

 わが国では(1)対面による診療や(2)医療機関へのフリーアクセスが平時の「常識」とされてきた。しかし、これらは非常時においてパンデミックのリスクを高めかねない。むしろ、オンライン診療の普及とかかりつけ医の活用は平時において患者の利便性を高める一方、非常時には彼等の安全を確保、患者の流れをコントロールすることで医療崩壊を防ぐものとなろう。(一橋大学経済学研究科・政策大学院教授 佐藤 主光)

 佐藤 主光(さとう・もとひろ)

 一橋大学経済学研究科・政策大学院教授

 1992年一橋大学経済学部卒業、98年クイーンズ大学(カナダ)経済学部 Ph. D取得。専門は財政学。政府税制調査会委員、財務省財政制度等審議会委員などを歴任。2019年日本経済学会石川賞受賞。主な著書に『地方税改革の経済学』など。

(PRESIDENT Online)

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