家族がいてもいなくても

(633)芽吹く季節、衝動にまかせて

 那須に来て3度目の春を迎えようとしている。

 芽吹きの季節を告げる梅の木が満開になり、クロッカスやスイセンがあちこちで咲き始めている。

 この時期になると、私は、なにやらワクワクを通り越して、言いようのない胸騒ぎを覚える。

 今年はさらに、新型コロナウイルス禍での心のモヤモヤが重なって、心ここにあらずの状態。

 そんな最中(さなか)になにかを思いつくと、私はつい衝動に走るタイプなので、気をつけねばならなかった。けれど、やっぱりやってしまった。

 実は、私は、この地にかなり広い原っぱを借りてしまったのだ。

 そもそもは、那須に移住してきたとき、森の中に小さな人形劇場を作ろう、と思っていた。

 それで、トラックに舞台や機材をすべて積んでやってきたのだけれど、思うようにいかない。

 熟慮の末、まずは自分の住む場所からお散歩気分で歩いて行けるところに荷物を置ける場所を借りて、それから考えようと物件を探していた。

 いずれ、車の運転ができなくなる日を思っての選択だった。

 ところがうまくいかない。

諦めかけたとき、人に言われた。

 「土地を借りたらいい、ここいいなあ、と思うところに物置を置かせてもらえばいいんだよ」と。

 さっそく、ここいいなあと思っていた松の木のある空き地を借りたい、と申し出てみた。

 「どのくらい?」

 と聞かれ、「2坪かなあ」と言ったら、「借りるということは、このあたり全部だよ」と。

 さらにそこをどうしたいかプランを出して、と言われ、ついイングリッシュガーデンとか、ブルーベリーを植えたいとか、原っぱの真ん中にクローバーを敷き詰め、街頭人形劇をやる、などと「夢」を語ったら、「いいねえ」と土地を貸してくれることになった。

 その「いいねえ」の話がまわりに連鎖し、みんなで力を合わせて、そこを素(す)敵(てき)な場所にしようよ、ということになった。

 それは、コロナ禍でみんなが家にこもって自粛中の2週間の間に起きた出来事だった。

 翌日にはアマゾンで購入した

「クローバーの種1リットル」が宅配便で届き、まずは、幸せの原っぱづくりの春の種まきの準備が整ってしまった。

 衝動は怖い、けれどなにかを始めるってこんなふうなのかも。今日は、いそいそと小さなガーデンハウスふうの物置を仲間と見に出かけてしまった。(ノンフィクション作家)

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