グランクーペであることを忘れてしまう走り
さて、その走り味は相当に過激である。搭載するエンジンは直列4気筒2リッターユニットにターボチャージャーを2基組み合わせることで、最高出力306psを炸裂させる。低回転から怒涛のトルクを発揮し、高回転まで弾けるように伸びる。ハイウェイドライブでは胸のすくような加速を披露するばかりか、サーキットでさえパワーを持て余してしまいそうな力強さである。
8速に刻まれたATミッションは、電光石火のシフトワークを披露する。ステアリングコラムから生えるバタフライを叩けば、まるでタイムを競っているかのようなテンポで変速が行われるのだ。実に小気味いい。
足回りも締め上げてあり、やはり同様にサーキットでも耐えられるであろう。そのほどの過激さを思えば、市街地で多少ゴツゴツと振動を伝えることや、限界域で横置きエンジンのFF駆動に垣間見える不安定さには目をつぶりたくなる。
その走り味に酔いしれていると、これがグランクーペであったことをついつい忘れてしまう。そもそも、都会を闊歩する姿が美しい都会派のスタイリッシュセダンであるはずなのに、いつしか限界領域で生き生きとする武闘派セダンだと錯覚してしまうのだ。いや、それこそが本来の姿かもしれない。
日本に、スタイリッシュと高性能を合わせ込んだモデルが存在しないのが残念だ。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。