趣味・レジャー

営業再開の近大マグロ 映画「TUNAガール」が描く完全養殖成功の研究秘話 (1/2ページ)

波溝康三

 世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功した近畿大学が、東京・銀座や大阪・梅田に、自ら育てた養殖マグロを提供する料理店をオープンし、話題を集めた。だが、この“近大マグロ”が誕生するまで研究者たちが32年も費やしたという事実を知る人はどれほどいるだろうか。そんな研究秘話を描いた映画「TUNA(ツナ)ガール」が完成した。パナソニックで約10年勤めた後、映画界へ転身した安田真奈監督ならではの綿密な取材により、“リケジョ(理科系女子)”のヒロインの視点から完全養殖成功までの過程を浮き彫りにしていく。

 映画の主人公は、近大農学部水産学科3年生の美波(小芝風花)。マグロ養殖の研究のために和歌山県にある大学の水産研究所へ合宿にやってくるが、毎日失敗ばかり。だが、教授や同級生たちに助けられながら、マグロ養殖の奥深さを知り、研究に没頭していく…。

 「オリジナルの脚本を書くために、和歌山の近大水産研究所に通い、教授や研究スタッフたちにヒアリングし、脚本を練りあげていきました。また、ロケ地として水産研究所を借り、全面協力の下で撮影を行いました」

 和歌山・串本などでオールロケを行い、映画を完成させた安田監督はこう振り返る。

 32年間、研究を続け

 近大の水産研究所が、世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功するのは、今から18年前、2002年のことだ。

 「研究を始めたのは1970年です。当時、パソコンもスマホもない時代に、研究者たちは困難な研究に没頭していた。今以上に大変な環境の中での研究だったことが想像できます。そして32年間も費やして、遂に完全養殖の成功にこぎつけるのです」

 世界でクロマグロの漁獲量が激減していく中、水産庁主導のもと、複数の研究機関や大学などがクロマグロの完全養殖の研究を試みたが、人工ふ化させた稚魚の成育などに難航。各研究機関が、次々と養殖をあきらめ脱落していく中、唯一、近大だけが研究を続け、不可能といわれてきたクロマグロの完全養殖に成功する経緯などが、映画の中で明かされていく。

 「研究を始めた当初、近大でも11年間、卵すら採れない時期があったのです」と安田監督は話し、こう説明を続けた。

 「マグロは巨大で荒々しく強いイメージがありますが、ふ化から沖出し(沖合で成長させる)までの生存率はわずか5%しかありません。そんな、繊細で弱い生き物を研究者たちは大切に育ててきた。何度も失敗を乗り越えながら、養殖に懸けてきたのです。そんな研究者たちの情熱、思いを映画で伝えることができたら…」

 壁を突き破る「突進」

 タイトル「TUNAガール」にはこんな意味も込められている。

 「マグロのTUNAの語源は、ギリシャ語のツナス(=突進)。どんな困難にも突進して向かっていく姿を、ヒロインの美波に重ねました」

 こう語る安田監督自身、男子学生が多い理系学部の研究班で奮闘する女子学生、美波のように、これまで男社会の企業や映画界の中で、何度も壁にぶつかりながら“突進”し、自らの人生を切り開いてきた女性の1人だ。

 奈良県で生まれ育ち、奈良高校、神戸大学時代に映画製作に興味を持ち、自主製作にのめり込む。松下電器産業(現パナソニック)に就職後も、ずっと脚本を書き、監督として映画を撮り続けてきた。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus