ヘルスケア

「バーチャル一時帰宅」や「遠隔手話」 コロナ後に根付きそうなものは?

 新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、さまざまな業界で新たなサービスが生まれた。感染防止の観点から人と人との濃厚接触を避けるため、緊急措置的な工夫を凝らされたものが多いが、中には思わぬ反響を呼んで「コロナ後」に根付きそうなものもある。(江森梓)

 「手話通訳士の少ない地域にも」

 手話通訳派遣サービスを手掛ける「ミライロ」(大阪市)は、オンラインを利用した遠隔手話通訳サービスを始めた。企業の採用面接などにも利用されて広がりを見せており、コロナ後は手話通訳士の少ない遠隔地での導入も目指す。

 サービスを開始したのは4月。新型コロナの感染拡大に伴い、多くの場所でテレビ会議が開かれるようになったが、聴覚障害者にとっては不便なことが増えた。相手の唇の動きを読み取ろうとしても画像が粗くて口元が見えず、「話をすべて理解できない」との声も上がった。

 一方で、手話通訳士を現場に派遣することも課題があった。手話は口の動きも重要な意思疎通のツールとなるためマスクの着用ができず、感染リスクを抑えることが難しいからだ。

 そうした中、同社は手話通訳士が一緒にテレビ会議システムに入り、遠隔からの手話通訳を行うことを考案。企業の採用面接などに使われた。サービスを利用してオンラインセミナーを行った立命館大の長瀬修教授は「参加者からも非常に見やすいと好評だった」と振り返った上で「全国各地から参加があった。今後もこうしたサービスを利用しながらオンラインセミナーを開きたい」と話す。

 同社が見据えるのは、コロナ後のサービスの普及だ。社会福祉法人「聴力障害者情報文化センター」によると、全国の手話通訳士は6月時点で3826人。内訳を見ると東京都在住が827人に対し佐賀県在住は8人と、地域によって偏りがあるのが実情だ。

 同社の担当者は「このサービスによって通訳士が少ない地域でも、気軽に手話通訳を利用してもらえる。通訳手段の選択肢を増やすことで、聴覚障害者が暮らしやすい社会になれば」と期待を込めた。

 一時帰宅もバーチャルで

 三重県鈴鹿市の老人ホーム「みっかいち」では5月上旬から、テレビ電話などを介して入居者に自宅の様子を確認してもらう「バーチャル帰宅」のサービスを始めた。「よりきめ細やかなサービスができるようになった」と手応えを感じており、コロナ後も続けたい考えだ。

 自宅に服を取りに帰りたい-。きっかけは、そんな1人の入居者の女性の要望だった。女性は一人暮らしで、自宅は空き家状態。新型コロナの感染が拡大する中、重症化リスクの高い高齢者の外出は難しく、代わりに近くに住んでいた息子に取りにいってもらった。

 だが、口頭ではなかなか意図が伝わりづらく、服は女性が望んでいたものと違っていた。そこで無料通話アプリ「LINE」のテレビ電話機能を用いて、自宅の様子を映しながら作業してもらうことにした。たんすの何段目にあるどの色の服が必要か-。女性が指示した場所を確認すると、希望の服がしまってあった。

 施設長の松原和之さん(51)は「あのときは本当に喜んでもらえた」と振り返る。以降職員が利用者の代わりに自宅へ赴き、持ってきてほしいものをテレビ電話で利用者に確認してもらうようになった。

 さらに感染拡大に伴い入居者と家族の面会が禁止となっていたため、利用者の日常の様子を撮影し、週に1度は家族にLINEで送信。家族は気になったことや感想などを返信でき、「これまで見られなかった普段の様子を知ることができ、安心できた」といった声が寄せられたという。

 松原さんは「バーチャル帰宅は寝たきりの利用者でも自宅の様子を手軽に確認できるし、家族から反響があれば職員のモチベーションにもつながる。コロナ後も続けていきたい」と話している。

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