スペースXに恐々とする世界の老舗ロケット・メーカー
スペースX の再利用型ロケットは、老舗のロケット・メーカーをいま窮地に陥れています。
現在、スペースXのロケット「ファルコン9」は世界でもっともハイペースで打ち上げられています。それは、ファルコン9の第1段ロケットや2本のブースターが、垂直着陸を前提とした完全再利用型であり、一回当たりの打ち上げコストが他社ロケットに比して格段に安いからです。そしてそのシステムは、スターシップ、スーパーヘビー、大型の「ファルコン・ヘビー」、そして今年5月に打ち上げに成功した有人宇宙船「クルー・ドラゴン」も同様です。
これに対抗するため、ESA(欧州宇宙機関)は新型ロケット「アリアン6」を、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は「H-3」を、ロッキードとボーイングの合併企業であり米国最大のロケット・メーカーであるULA(United Launch Alliance)は「バルカン」を、2020年から2021年にかけて打ち上げることを予定しています。これら新型ロケットのコンセプトの根幹にあるのが「より安く」であり、すべてはスペースX に対抗するためと言えます。
10月7日に火星へ最接近する「スターマン」
こうした老舗の奮闘をよそ目に、スペースXは毎月のようにファルコン9を打ち上げ、その再利用を続けています。また、そのファルコン9の第一段ロケットを3基つなげた「ファルコン・ヘビー」のテスト打ち上げも2018年2月に成功しています。そのテスト機には、イーロン・マスク自身が実際に乗っていたテスラの「ロードスター」に、ダミー人形「スターマン」が搭乗していて、火星への軌道に投入され、今年10月7日には火星に最接近する予定です。つまり、数トンのペイロードを火星近傍へ送り込むことには、すでに成功しているのです(公表では火星への打ち上げ能力は最大16.8トン)。
ウェブサイト「Where is Starman ?」(外部サイト)では「スターマン」の現在位置とその軌道が確認できます。
前澤氏が月へ行くのは2023年
イーロン・マスクはスターシップの試験機に関して「SN 20号機あたりまで続くだろう」と述べていますが、その異常ともいえる開発ペースを考えれば、おそらく20号の打ち上げまでに2年はかからないと思われ、実際、2023年にはZOZO創設者の前澤友作氏をスターシップに乗せ、月周回旅行をする契約をしています。
かつてない超大型のスターシップとスーパーヘビーが実用化されれば、現行のファルコン9とファルコン・ヘビーの運用を終了し、スターシップにすべてのタスクを担わせることで、その打ち上げコストは「初期モデルの『ファルコン1』さえ下回るだろう」とも発言しています。
つまり、イーロン・マスクが次々とその夢を実現させているいま、ペイロード当たりの打ち上げコストは劇的に下がり続け、人類の月滞在、有人火星探査、さらには地球外天体への入植が、どんどん現実味を帯びてきているのです。
【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。