宇宙開発のボラティリティ

野口聡一氏の打ち上げ延期 ファルコン9の信頼性は失われたのか (1/2ページ)

鈴木喜生
鈴木喜生

 野口聡一氏が搭乗する新型宇宙船「クルー・ドラゴン」の打ち上げが、10月31日から「2020年11月上旬から中旬以降」に延期されましたが、これはどのような事態なのでしょうか? イーロン・マスク率いるスペースX社が開発した宇宙船やロケットなどの機材事情や、同社が置かれた昨今の環境を踏まえつつ、その状況を考察したいと思います。

ファルコン9の不具合とは?

 今回の打ち上げ延期は、スペースX社のロケット「ファルコン9」に発生した不具合と、その確認調査のためであることをNASA(米航空宇宙局)が公表しています。ファルコン9は2段式のロケットですが、問題があったのは第1段ロケットのエンジンの一部「ガスジェネレータ」と呼ばれる小型燃焼器であり、これがターボポンプを回すことによって推進剤であるケロシンと液体酸素が燃焼室へ送入されます。つまりこのガスジェネレータはロケットの心臓とも言える部位であり、もしここに不具合が発生すれば、個々のエンジンが停止する可能性があります。

計94機の打ち上げと、成功率97.9%

 ただし、ファルコン9は、近年もっとも高い頻度で打ち上げられているロケットです。2010年の初ローンチから2020年10月18日までにおける打ち上げ回数は94回。うち失敗は地上での事故も含めて2回で、成功率は97.9%。近年の中型ロケットとしては非常に高い信頼性を確保しています。

 この打ち上げ回数の多さはすなわち、過去に取得したデータの豊富さを意味しています。NASAは今回の対応として、「ハードウェアの再テストと、過去のデータの再考察」を実施し、これによって問題はクリアできると公表しています。実際、今回の延期発表後の10月18日には、同型のファルコン9による通信衛星の打ち上げに成功していて、そのリスクはほぼ解消されていると予想されます。今回の打ち上げ延期は、万全を期すための処置とも言えます。

【「ファルコン9」の打ち上げ実績・予定(10~11月)】

  • 10月6日(火) 通信衛星「スターリンク13」
  • 10月18日(日) 通信衛星「スターリンク14」
  • 10月22日(木) 通信衛星「スターリンク15」
  • 10月 航法測位衛星「GPS 3A-04」
  • 11月6日(金) 通信衛星「シリウスXM-7」
  • 11月11日(水) 地球観測衛星「センチネル6」
  • 11月上旬~中旬以降 ISS有人宇宙船「クルー・ドラゴン1号機」
  • 11月23日(金) ISS補給機「ドラゴン21号機」
  • 11月30日(月) 通信衛星「トルコサット5A」

リスク分散のためエンジンを9基搭載

 ファルコン9が第1段にエンジン「マーリン」を9基も搭載しているのは、そのうちの数基が停止してもペイロード(荷物)を軌道上に無事到達させるためでもあります。アポロ13号(1970年)の打ち上げでは、第2段ロケットの5基あるエンジンのひとつが停止しましたが、他のエンジンの噴射時間を長くすることで予定軌道に無事投入されました。これと同様のリスク分散の思想が、ファルコン9の設計コンセプトには組み込まれています。その名称にある「9」とは、第1段ロケットにマーリン・エンジンを9基搭載していることに由来しています。

【「ファルコン9」諸元】

・寸法

全高70m、本体直径3.7m、フェアリング直径5.2m

・打上時重量

549トン

・打上能力

低軌道22.8トン、静止トランスファー軌道8.3トン、火星4.02トン

・第1段エンジン

マーリン×9基(総推力7607kN)

・第2段エンジン

ヴァルカン×1基(推力981kN)

需要が高まる「超低コスト」ロケット

 新興企業であるスペースX社のファルコン9に高い需要が集まるのは、その打ち上げコストが非常に安いことにあります。例えば、米国の最大手ロケット企業であるULA社の中型ロケット「アトラスV」の打ち上げコストが約1.1億ドルであるのに対し、ファルコン9は約6200万ドル。2017年以降は、打ち上げ後に切り離された第1段ロケットを垂直状態で地上に帰還着陸させており、それを再利用することによってさらにコストを下げています。

 スペースX社はファルコン9の着陸をこれまでに計55回成功させており、この10月に打ち上げられた1機は、3度目の再使用機です。

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