ヘルスケア

英、8日からコロナワクチン接種開始 高齢者に「-70℃の壁」

 【ロンドン=板東和正】米製薬大手ファイザーと独バイオ企業ビオンテックが共同開発した新型コロナウイルスのワクチン接種が英米で始まる。英国は8日の接種開始を予定していて、欧米メーカーのワクチンを日米欧の中で最初に使用する国となる。ワクチンによる感染抑制に期待が高まる一方、重症化リスクの高い人への接種が遅れる可能性や、市民に広がる安全性への懸念払拭が課題となっている。

 英政府はファイザー側と来年末までに4000万回分(2000万人分)のワクチン供給を受ける契約を結んでいる。今週中に80万回分の供給を受ける予定で、すでに一部のワクチンが3日、製造拠点のベルギーから英仏を結ぶユーロトンネルを経由して英国に到着した。

 英メディアによると、8日の接種を前に、首都ロンドンを含むイングランド地方では、約50カ所の病院で接種する態勢が整備されている。北部スコットランドや南西部ウェールズなどの医療機関でも同日に接種が開始される見込みだ。

 しかし、接種の準備が進む一方で、供給面での課題も浮かび上がっている。

 英政府は、まず高齢者介護施設の職員や80歳以上の高齢者に接種する方針だ。英政府の諮問委員会は、高齢者介護施設の入所者と職員が最優先だとしたが、ワクチン管理に必要なマイナス70度前後で保管できる設備が介護施設にないため、重症化リスクの高い入所者への接種が困難だとみられている。英政府は特殊容器の開発などを進めるが、問題解決のめどは立っていない。

 また、米メディアはファイザーが原材料の調達などで問題が生じワクチンの年内供給量を半減させる方針だと報じている。ジョンソン英首相は、高齢者らへの接種が終わるまでに「数カ月かかる」と見通していたが、年内供給量が減少すれば、高齢者への接種がずれ込む恐れがある。

 さらに市民の間では、短期間でワクチンが開発されたことから、安全性に懐疑的な見方も少なくない。

 英調査会社ユーガブが3日に発表した約5000人を対象にした調査では、「ファイザーのワクチンが安全であると強く確信する」と回答したのは27%だった

 ファイザーの臨床試験では倦怠(けんたい)感や頭痛などの副作用が報告されており、ロンドンに住む男性(83)は「接種を受けるかどうか迷っている」と話す。

 接種反対の運動も起こり、一部の市民がデモやSNSへの投稿でワクチンによる健康被害を訴えている。投稿には、副作用を過度に強調した誤情報も目立ち、英政府は接種希望者の減少を懸念。このためジョンソン氏は、自らがワクチンを接種する様子を公開し安全性を証明することも検討している。

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