習慣引力が持つこれらの働きを思えば、「新しい習慣を身につけるのは難しい」ことがよくわかっていただけると思います。
でも、見方を変えれば、「習慣引力があるからこそ習慣化できる」ともいえるのです。身につけたい習慣を一度「いつもどおり」に組み込むことさえできれば、その後は特別な努力など必要なく習慣を維持することができます。それが「いつもどおり」のことになったからです。
「複数の習慣を一度に身につけようとする」から続けられない
新しい習慣を身につけるのが難しいことの要因は、「習慣引力」の働きだけではありません。「複数の習慣を一度に身につけようとする」ことも、習慣化を難しくさせている要因の1つです。
複数の習慣を一度に身につけようとした場合、その習慣化の難易度は、「成功しにくい」といったレベルではありません。多くの人の習慣化をお手伝いしてきたわたしの経験からいえば、「無謀」という言い方をしてもいいでしょう。
でも、多くの人は、つい複数の習慣を同時に身につけようとしがちです。
「やる気」が習慣化の邪魔をする
みなさんが新しい習慣を身につけようとしているときは、どんな気持ちになっているでしょうか? おそらく、「やる気満々で張り切っている」という人がほとんどであるはずです。
わざわざ新しい習慣を身につけようとしているのですから、「このままの自分では駄目だ!」「わたしは変わらないといけない!」「今度こそいい習慣をしっかりと身につけるぞ!」と思っているのですから、やる気満々で張り切っていて当然です。
すると、人間はつい欲張ってしまいます。
たとえば、「出勤前の朝に勉強をする」という習慣を身につけたいという人がいるとします。では、その人は、「出勤前の朝に勉強をする」という習慣だけを身につければいいのでしょうか? その答えは、「NO」です。
そもそも、出勤前の朝に勉強をするには、その勉強時間を確保する必要があります。つまり、「出勤前の朝に勉強をする」という習慣を身につけるためには、「早起きをする」という習慣も同時に身につけなければならないのです。
複数のアクションを同時に習慣化することはできない
しかも、やる気満々で張り切っている人の場合、それだけで終わらないということもあります。「せっかくだから」と考えるのです。
「せっかく早起きするんだから、勉強だけでなく運動もしよう」「せっかく早起きするんだから、勉強だけでなく掃除もしよう」というふうに、ついつい欲張ってしまうという具合です。
つまり、この場合には、「早起きをする」「出勤前の朝に勉強をする」「出勤前の朝に運動をする」「出勤前の朝に掃除をする」という、じつに4つもの習慣を一度に身につけようとしていることになります。
冷静に考えれば、そんなことが簡単にできるはずはありません。
習慣化は1つずつ行うこと
きちんと早起きできたとしても、勉強する気にならないこともあるでしょう。
このケースの場合、勉強に加えて運動も掃除もしようとしているわけですから、たとえ勉強する気になっていたとしても、運動や掃除をする気にならないこともありえます。
そして、どれかひとつでもできなければ、「きちんとできなかった……」と思ってしまう。すると、習慣化の天敵である、「どうせ自分にはできない」という「学習性無力感」におちいってしまうリスクも高まっていきます。
「習慣化」の際は、複数の習慣を同時に身につけようとすることなく、興味を持ったものから1つひとつ身につけていくことを心がけてほしいと思います。
古川 武士(ふるかわ・たけし)
習慣化コンサルタント
習慣化コンサルティング株式会社代表取締役。1977年、大阪府に生まれる。関西大学卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。約5万人のビジネスパーソンの育成と1万人以上の個人コンサルティングの経験から「続ける習慣」がもっとも重要なテーマと考え、日本で唯一の習慣化をテーマにしたコンサルティング会社を設立。オリジナルの習慣化理論・技術を基に、個人向けコンサルティング、習慣化講座、企業への行動定着支援の事業を開始。2016年には中国で6000名規模の習慣化講演を行い、本格的に海外進出をはじめる。著書は現在21冊、累計95万部を超え、中国・韓国・台湾・ベトナム・タイなど海外でも広く翻訳され読まれている。
(習慣化コンサルタント 古川 武士)(PRESIDENT Online)