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先行イスラエルが示す遠い経済再開 ワクチン接種最速ペースも険しい道のり

 各国が新型コロナウイルスワクチン普及による経済正常化を待望するなか、世界最速のペースでワクチンの接種が進むイスラエルの現状はその道のりがいかに長く、険しいかを浮き彫りにしている。

 消費者なお警戒感

 イスラエルでは人口930万人のおよそ半数がワクチン接種を少なくとも1回受けており、人口当たりの接種率が世界一だ。同国はワクチン接種を経済再開の足掛かりとしたい考えで、2月21日にはワクチン接種済みの人と、感染から回復した人に発行される証明書「グリーンパスポート」の保持者に、劇場や競技場、ホテル、ジムの利用を解禁した。既に人口の3割が交付対象となり、ジムやプールなどの施設を利用できるようになった。

 こうした状況は数カ月間にわたり閉鎖された企業や、ロックダウン(都市封鎖)中の国民への支援に数兆ドルの資金を投じてきた世界各国に希望をもたらしている。だが、イスラエルでは当面の間、新型コロナ禍前と異なる「新常態」が続きそうだ。

 ニザール・ベン・ツヴィさんが経営するイスラエル北部のハイファ劇場の例を見てみよう。2月下旬に始まったキャバレー「バーゲンマーケット」のショーのチケットは完売したものの、観客は座席の間隔をあけて座る必要があり、キャパシティーの半分しか埋められない。こうした状況下ではより高い予算を投じるミュージカルなどの大作の場合、制作費を賄うだけの収入を確保できない。

 国民が経済再開に備えるイスラエルでは、各地で同様な状況が散見される。企業は慎重に操業拡大を進めているものの、いまだ社会的距離(ソーシャルディスタンス)の措置は欠かせず、消費者は依然として警戒感を示している。パスは半年で有効期限が切れるため、国民が感染症への懸念を払拭できるまでに時間を要する見通しだ。

 国内最大級のホテルチェーン、イスロテルは大半を営業再開した。しかし、グループのオペレーションマネジャーを務めるアミット・バハト氏によると、先週の客室稼働率は50%程度と例年の同時期の水準を下回る。

 名門サッカークラブ、ベイタル・エルサレムはここ1年ほどホームで無観客試合を続けてきたが、グリーン・パス制度の導入以降も本拠地「テディ・スタジアム」に観客を呼び込むだけの価値はないとみている。ベイタルのモニー・ブロッシュ最高経営責任者(CEO)によると、現状では3万の収容席数のうちわずか500席ほどしか受け入れられず、開放にかかるコストを補えないという。

 牽引役も休眠状態

 主要な経済の牽引(けんいん)役も依然として休眠状態にある。主要空港はほぼ全ての航空便を3月上旬まで運航停止するため、観光客はなきに等しい。

 イスラエル経済は昨年に2.4%縮小したが、イスラエル銀行(中央銀行)は接種が順調に進めば、今年の経済成長率は6%以上になると予測する。ただ、既存ワクチンに対応しない変異種の流行などのリスクはなおくすぶる。政府が23日に総選挙を控えるなかで、コロナ禍からの経済の過渡期を乗り越えるための十分な財政支援を提供できない恐れもある。

 イスラエル銀のマクロ経済・政策部門の責任者を務めるアディ・ブレンダー氏は「目下の課題は資金の浪費や財政支援への依存から脱却するため、いかに現行の刺激策からの撤退を模索するかにある。他方、経済回復の勢いをくじかず、拙速な支援打ち切りを避けることも課題となる」と指摘した。

 通貨シェケルは迅速なワクチン接種ペースが好感され、今年に入ってから世界で最も良好なパフォーマンスを示す通貨の一角を占める。イスラエルの株価指数も年初来、米S&P500種株価指数の上昇幅を上回るペースで推移している。

 一方、ワクチン接種は序盤こそ良好な滑り出しを見せたものの、現在は最初の数週間に比べペースが鈍化している。こうした中、当局は未接種者の実名を公表する規制の導入を視野に入れるほか、教員など特定の職業に就く人々に対し接種や頻繁な検査を促している。

 経済再開が順調に進めば、イスラエルではレストランやカフェが現在の持ち帰りや配達などの制限から解放され、3月上旬に全面的な営業再開が可能になる見通しだ。ただ、外食事業者団体を率いるトマー・ムーア氏によると、レストラン約2000店舗にとっては、営業再開にかかるコストが重荷になる可能性があるという。

 テルアビブにある人気のグリルハウス「M25」のオーナーでシェフのジョナサン・ボロウィッツ氏は再参入にかかるコストがあまりに高いため、営業再開を見合わせる計画を立てている。ボロウィッツ氏は「冷蔵庫を補充し、資金を投じる気にはまだなれない。トンネルの先に光が見えるとは思えない」と語った。(ブルームバーグ Ivan Levingston)

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