大変革期のモビリティ業界を読む

歩行者優先の街づくりを目指す三重県四日市市 クルマ中心の都市からの脱却 (2/2ページ)

楠田悦子
楠田悦子

 優先順位をつけて「歩く人」中心に

 バスターミナルの整備は中央通りの整備へと話が発展していったのだそうだ。中央通りのエリアデザインの方針には、居心地が良く歩きたくなる空間づくり、歩行者を中心とした交通施設の配置、使いやすく可変性を持った空間の設えなどの目標が掲げられている。欧州では、移動手段の優先順位をしっかりと定めている国は多い。日本ではまだまだ少ないのが現状であるが、歩行者、自転車、公共交通、一般車の順番に優先順位もしっかり定めている。

 この優先順位を原則に、北側の車線は、歩行者に開放し、「通過交通」が多くなっていた自動車の車線を大きく減らす。そしてクスノキの並木を活かしながら、道路を市民がつどう大きな公園に道路を見立てていき、自転車やパーソナルモビリティなどのスローモビリティの専用道も設け、自動運転やドローンなどの次世代技術も積極的に活用していく。

 四日市市の取組みは、多様な交通手段を一体的に提供する「MaaS(マース)」や自動運転や電動化など「CASE」と呼ばれる次世代技術などを背景に集約型公共交通ターミナル「バスタ」を全国展開しようとする国交省に全国で先駆けた事例として高く評価され、同省の「バスタプロジェクト」の候補地に選ばれた。今後、全国の模範的な事例として扱われることになるだろう。森智広市長の肝いりでもある。

 道路の自動車車線を減らして、歩行者中心の街に作り替えたり、集約型の公共交通ターミナル「バスタ」をつくったりしようとする都市は他にも出てきている。阪神・淡路大震災の復興期からようやく新たな開発へと動き出した神戸市などで、日本の街もクルマ中心の都市から徐々に脱却しつつある。

 次世代モビリティの活用

 今年3月19日から3日間、四日市市で「まちなかの次世代モビリティを考える3Days」が開催され、自動運転やグリーンスローモビリティなどの次世代モビリティの試乗会が行われた。基調講演で同市の駅周辺等整備基本構想検討委員会の委員を務める名城大学の松本幸正教授は、公共交通や自動運転などの次世代モビリティを活用していくためにもクルマ中心の街から脱却していく必要があると強調した。

 日本で行われている自動運転や次世代モビリティの活用の検討は、移動手段のみに着目しがちだと感じる。しかし、中心市街地においては四日市市のように、クルマ中心から歩く人中心に優先順位をつけて、街全体をトータル的にデザインすることが重要ではないだろうか。

心豊かな暮らしと社会のための移動手段・サービスの高度化・多様化と環境を考える活動に取り組む。自動車新聞社のモビリティビジネス専門誌「LIGARE」創刊編集長を経て、2013年に独立。国土交通省のMaaS関連データ検討会、自転車の活用推進に向けた有識者会議、SIP第2期自動運転ピアレビュー委員会などの委員を歴任。編著に「移動貧困社会からの脱却:免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット」。

【大変革期のモビリティ業界を読む】はモビリティジャーナリストの楠田悦子さんがグローバルな視点で取材し、心豊かな暮らしと社会の実現を軸に価値観の変遷や生活者の潜在ニーズを発掘するコラムです。ビジネス戦略やサービス・技術、制度・政策などに役立つ情報を発信します。更新は原則第4月曜日。アーカイブはこちら

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