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(199)脳卒中を防ぐためには

 70代後半の女性が健康診断のことでクリニックに来ました。血圧を確認したところ、上が200mmHg近い値だったためすぐに診察を受けてもらいました。最近、会話中に言葉が出てこないことや物がつかめないことがあり、健診を受けようと考えたようです。

 高血圧のほか脂質異常もあり、心電図では狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患を疑わせる所見がみられました。脳のMRI検査では脳出血や脳梗塞の痕があり、動脈硬化が進み血管が細くなっている場所も見られました。すぐに心臓の検査を手配し、高血圧と脂質異常の治療を開始。すぐに禁煙するようにお話ししました。

 言葉が出にくかったり物がつかめなかったりする症状は、脳の一部分の血流が一時的に滞ったために起こったと考えられます。脳梗塞を起こしたかのような症状が出て、すぐ元の状態に戻るものを一過性脳虚血発作(TIA)と呼んでいます。

 TIAが起こった後、症状がなくなったからといって放っておいてはいけません。TIAが出てから1~2週間は脳卒中を発症する可能性が高いことが知られており、注意が必要です。最近の研究ではこの期間を過ぎても決して安心はできないようです。

 この研究はTIAや脳卒中の既往がない米国人1万4千人を対象に、TIAの発症とその後の脳卒中の発症との関係を観察したものです。まずTIA発症後平均約9年の観察で、およそ3割の人が脳卒中を発症していました。そのうち2割は7日以内に発症していますが、半数は1年後以降に発症しており、TIAが起こった後、脳卒中を発症するまでの平均期間は1・6年でした。10年間での脳卒中発症率は、TIAを起こしたことがない人と比べると、TIAを起こした人では4・4倍高いことがわかりました。

 脳卒中を防ぐためには血圧、脂質、血糖値の管理が大切です。自宅での血圧測定や、健診などでの血液検査で異常がないかを確認し、あれば必ず治療を受けましょう。またせっかく治療を受けていても、喫煙を続けていると効果はかなり薄れてしまうので、禁煙は必須です。

 この女性患者さんも治療を始めて血圧は安定し、TIAの症状も出なくなっています。禁煙をしたようで、ご本人いわく、「死の淵まであと少しと言われたら、誰でもやめるわよ」とのことでした。

(しもじま内科クリニック院長 下島和弥)

=次回は5月13日掲載予定 

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