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妻の死亡保険は本当に要らない?「夫より収入が低いから」という先入観 (1/2ページ)

鈴木暁子
鈴木暁子

 最近筆者が相談対応をするご夫婦は若いカップルが多く、結婚して子どもができたので保障の見直しが必要ではないかとご相談にみえたケースが、たまたま数回続きました。家族構成に変化が生じ、ライフプランのひとつの大きな転換となるタイミングで、保障の見直しの必要性に気づいて検討する若い世代が増えているというのは、喜ばしいことだと思っています。

 ただ、具体的に話を進めていくと「ちょっと待って」と注意を促したい場面があります。せっかくの保障の見直し、今回は、本人たちは気づきにくいけれど、意外と大事な注意点をお伝えしたいと思います。

大黒柱は夫だけとは限らない 妻も大黒柱の1本!?

 共働きといっても夫婦の収入の構成は世帯ごとに違います。たとえば世帯収入800万円であっても、夫600万円+妻200万円という世帯もあれば、夫婦とも400万円という世帯もあります。

▼夫の収入が妻より少し高い夫婦のケース

 一つ目の事例は共働きで、収入としては、妻より少し夫が上回っているようなAさんご夫婦の世帯です。これまで夫婦二人だったのでどちらも死亡保険には加入していなかったけれど、「子どもが生まれたので」夫の保険加入について相談したいというものでした。夫には相当額の死亡保障を検討しているようなので、その際筆者が「奥様の加入は検討されないのですか?」と伺ったところ、「とりあえず自分(夫)かなと思って」とおっしゃるのです。

 確かに収入の高いほう(筆者の相談業務において、多くの場合は夫)に万一のことがあれば、世帯の経済的ダメージは大きいですから、夫の保障に重きをおくのは当然といえます。しかし、共働きの妻の死亡保障が検討外というのはどうでしょう?

 ある程度の収入を得ている妻であれば、それも加味した家計であることは多いと思います。その場合1本の大黒柱ではなく、2本の柱で成り立っていると考えるべきです。女性が数年働いて寿退社をするのが普通という時代であればともかく、共働きも当たり前という若い世代でも、いまだに「夫=大黒柱、一番責任重大な人」というイメージが、男性にも女性にもあるような気がしています。昔ながらのイメージが影響しているのでしょうか。

▼万一の際の公的保障も、妻を亡くした「夫」には意外と薄い

 保障を検討する際、まずは公的保障、次に勤務先の制度を活用し、それでも不足する分を自助努力でカバーというのが原則です。死亡保障の場合、公的保障というのは遺族年金です。公的年金は1階部分の「基礎年金」と2階部分の「厚生年金」から構成されていますが、それぞれ給付してもらえるための要件があります。

 Aさんご夫婦(夫婦いずれも30代前半、年収は夫410万円、妻350万円、子ども(0歳))のケースで見ていきましょう。

【遺族基礎年金の受給要件】

 保険料納付要件は満たしているものとします。遺された配偶者が遺族基礎年金を受け取れるかどうかで大きなポイントは、対象者欄に記載されている要件に「該当する子がいるかどうか」です。子がいなければ夫であろうが妻であろうが受給資格はありません。

事例のケースであれば、子が高校を卒業するまで、夫死亡の妻は「78万900円+22万4,700円(子の加算)=100万5,600円(令和3年度の水準)」を受け取ることができます。また、妻死亡の夫も同等に受け取ることができます。

ところが遺族厚生年金は夫が妻と同等に受け取れるケースはなかなかありません。

【遺族厚生年金の受給要件】

 遺族厚生年金は子の有無にかかわらず夫も妻も受け取ることができます(※遺族厚生年金は納付している厚生年金保険料によって給付額が変わるため、一概にいくらとはいえません)。

 遺族厚生年金の場合、妻には年齢要件はありません。一方、夫が受け取る場合は対象者に記載のあるとおり、「妻が亡くなった時に夫が55歳以上であること」が要件です。つまり夫が受け取れるケースは格段に低くなることがおわかりでしょう。

 また、この事例では、0歳の子が高校を卒業すると遺族基礎年金は打ち切りとなりますが、その後妻には、65歳に妻自身の老齢年金を受け取れるようになるまで、中高齢寡婦加算という遺族厚生年金の加算給付があります。そして“寡婦”ですので、この加算給付は妻のみ対象となります。

▼会社の制度も、妻を亡くした「夫」にはハードルが高いことも

 また、福利厚生が比較的手厚い企業だと、従業員の死亡時に弔慰金のほか、遺族年金や育英年金を支給してくれるところもあります。ただ、妻がそのような企業に勤めていた場合でも、「当該従業員の収入を上回る者を除く」とか、「当該従業員に主として扶養されていた子」のような要件があります。

 これまでの相談の経験上、ケースとしては夫が妻の収入を上回る確率が高いので対象外になることが多く、子についても夫の扶養に入れていることが多いので、せっかくの給付も残念ながら対象外となってしまったことがありました。

 個々の世帯を見れば、収入にほぼ差がなく、家計における負担も同じという夫婦も少なくないでしょう。しかし世の中的にはまだまだ女性が男性よりも経済的に弱者であることが多いため、福祉的な要素は女性に対するほうが手厚く、遺族への給付としては妻に比べ夫が受け取れるもののほうが少なくなる可能性が高いのが現実です。

 実はAさんご夫婦の必要な保障額を試算したところ、妻が万一の際のほうが家計へのダメージが大きいことが発覚しました。

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