ラーメンとニッポン経済

1988-バブルと美食の時代に 「無化調」ラーメンの風が吹く (3/4ページ)

佐々木正孝
佐々木正孝

「日本の食通とたてまつられている人間は、こっけいだねえ!」「マスコミに取り上げられたくらいでいい気になって、客を粗末にするような人間の作る物は食べる価値がないっ!!」などなど、『美味しんぼ』のセリフには食の半可通、権威を傘にきた“名店”への苛立ちがあった。コマには剣呑な空気が漂っていた。その切っ先はラーメン、そして本丸と目された化学調味料にも向く。怒気に満ちた一字一句を見よ。

「ラーメンといえば、化学調味料が切り離せないとい思われるくらい、どこのラーメン屋でも大量に使っています。それがラーメンの恥部なんです」

「日本の食物はほとんどが、化学調味料まみれですよ。日本人は化学調味料中毒になっていて、舌がしびれるくらいに入っているとかえって喜んだりするんだから、情けない限りです」

『美味しんぼ』38巻「ラーメン戦争」

 大ヒットグルメマンガが化学調味料を槍玉にあげ、東京ラーメンシーンでは匠が先導獣として走り、「化学調味料は一切使わない」店が続々登場。いつしか、ラーメンフリークのみならず、広く「化学調味料を使わない=無化調」礼賛の空気が満ちていった。

 ラーメン評論家の大崎裕史は「(無化調という造語を使い始めたのは)1996年~97年頃から」(『無敵のラーメン論』)と回顧する。メディアへの初出を調べると、雑誌『DIME』が1996年9月5日号にて、『一二三』など「庶民派化学調味料不使用ラーメン」を紹介している。確かにこの頃、「無化調」は赤丸急上昇中のトレンドだったのだ。

■「無化調」それはバブルの風になびいた幻の旗だったのか

 化調列島と化した日本への反動として生まれたパワーワード。「無化調」という言葉が世に出て、はや四半世紀が経った。しかし、ラーメンガイドブックやフリークのブログ、Twitterで見かける機会はめっきり少なくなっている。評論家の提言には「無化調なら美味しいワケじゃない」「『無化調』はそんなに偉いのか?」という疑義も相次ぐ。

 JECFA(FAO・WHOの合同食品添加物専門家会議)など国際機関の調査では「化学調味料(グルタミン酸ナトリウム)の摂取と中華料理症候群に明確な関係は認められない」という結論が出た。健康上の懸念は解決された。また、プロの厨房では化学調味料を「フレーバー・エンハンサー」として使う動きも見られる。これはうま味が持つ「他の味を強調する作用」のこと。

 たとえば、野菜のみでとったベジブロスに適量の化学調味料を加えると、甘みや塩味、風味がまとまり、全体のバランスが取れるようになるのだ。化調=悪の枢軸論に、もはや説得力はない。

 一方、業務用調味料の最前線に立てば、イノベーションによって「化学調味料ではない化学調味料」が登場。「無化調」をうたいつつ、人工的にうま味をブーストしたラーメンも成立し得るようになっている。これはどういうことか? インスタントラーメン、チルド麺の成分表を見てみてほしい。そこには「魚介エキス」「牛肉エキス」といった名称が見つかるだろう。

 これは酵母にうま味成分を作らせた「酵母エキス」、アミノ酸に加水分解という加工を施した「たんぱく加水分解物」を含むもの。使い方、効果は化学調味料とまったく同じだが、製法が異なるため「化学調味料」には分類されないのだ。かくして、「無化調」の説得力が減じているのは確かなのである。

 今、ラーメン店の多くは、「化学調味料を使わない」よりも「化学調味料に頼らない」というスタンスにシフト。化調はバランサーとしてスマートに使いこなすのが20‘’sのスタイルだ。

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